僕のヒーローレクイエム

叔父さんは僕のヒーローだ。

いつも決まって近所の公園で待ち合わせするんだけど、たくさんの武勇伝を聞かせてくれる。
叔父さんは過去に4回地球を救っていて、何度か死にかけたこともあるらしい。
死の淵から蘇るたびに、更に強くなった叔父さんは、生まれながらの戦士である自分の宿命を呪ったこともあると、寂しそうに笑っていた。

これまで多くの異世界人や宇宙人とも戦ったし、地球を壊そうとした悪いやつも倒したことがあるみたいで、あとこれは内緒なんだけど、天国と地獄を巻き込んだ戦いもあったんだって。

アニメが好きな叔父さんは、いつもアニメで例えてくれるんだけど、僕はアニメをほとんど観ないので、正直あんまりよくわからない。
でも楽しそうに話す叔父さんを見ていると楽しい気持ちになるので、僕はうん、うんと、たくさん相槌を打ちながら聞く。

でも、37歳になった叔父さんは全盛期ほどの力はもう残っていないみたいで、今はどれくらい強いの？　と訊くと、「セルジュニアくらい」と言ってた。

やっぱり僕はそれもなんだかわからなかったけど「じゃああんまり強くなくなっちゃったんだね」と少しだけ残念な感じで言う。
すると叔父さんは「セルジュニアを馬鹿にしちゃいけないぞ」と、僕の無知を訂正してくる。

ジュニアっていうくらいだから弱いのかと思ったけど、結構強いらしい。
僕はホッとして、僕の憧れの叔父さんがまだ強さを維持していることを嬉しく思う。

叔父さんはいつも着ているポロシャツの胸ポケットに小さいナイフを入れているんだけど、それはいざという時しか使わないらしい。鍛え抜かれた肉体のほうがナイフより強力な武器になるからってことなんだけど、叔父さんのお腹はぷよぷよしている。でもそれは、敵を油断させるための擬態みたいなものだって言ってたし、お相撲さんみたいに、脂肪の下にはものすごい筋肉が隠されてるってことみたい。奥が深い叔父さんはやっぱりかっこいい。

なんで僕らが毎回公園で待ち合わせるのかといえば、お父さんが叔父さんを嫌っているからだ。

お母さんの弟でもある叔父さんはもう何年も仕事をしていなくて、いつもお母さんがお小遣いをあげているんだけど、お父さんはそれをよく思ってなくて、そのことでしょっちゅうお母さんと喧嘩してる。

だから僕にも「あいつとは遊んじゃ駄目だぞ」ってお父さんは言うんだけど、僕は叔父さんが好きだから、こっそり会っていろんな話を聞くんだ。
お父さんもお母さんも僕は好きじゃないから。僕とちゃんと向き合ってくれるのは叔父さんだけだから。友達がいなくても、両親に相手にされてなくても僕が寂しくないのは全部叔父さんのおかげなんだ。

――その日も、僕らは公園で会って、たくさん話をした。

叔父さんがまだ十代の頃に戦った悪魔が、悪い心を増幅させて身体を破裂させるっていうとんでもない技を使ってきたんだけど、叔父さんには悪い心がなかったから何事も起きなくて、一発の蹴りで倒しちゃったって話に僕が歓喜していると、後ろからなにかの袋を被せられて、突然前が見えなくなる。

「声を出したら殺すぞ」

そんな風に、聞いたこともない男の人の声が聞こえて、僕は小さく頷く。

「わ、だ、誰だ！　ちょっと、おい、これなんだよ！」っていう叔父さんの声が聞こえて、僕はちょっとだけ安心する。
あ、叔父さんも捕まってるんだって。

誘拐されるのはこれが2回目だったし、前も同じ感じだったから、慣れてるわけでもないけど、とりあえずおとなしくしておくのが最善だと僕は知っていて、思った通り、犯人は従順な僕に痛みを与えようとはしなかった。

うちのお父さんはテレビにも出てる有名な社長で、何億円も稼いでるってこともみんな知ってるから、子供である僕にはいじめとか嫌がらせとか、こうやって誘拐して身代金を要求するみたいなことは当たり前にあって、僕もそれは諦めて受け入れることにしている。

でも叔父さんはこういうのは初めてだったみたいで、「あ痛！　ちょ、やめて、やめ――」ってところで途切れた叔父さんの声で大丈夫かな叔父さん……って心配になるけれど、叔父さんならきっと大丈夫だろう。

とんでもない数の修羅場をくぐったって言ってたし、誘拐犯くらい本気を出したらすぐにやっつけてくれるだろうし。

車に押し込まれて、2時間くらいのドライブの後、倉庫みたいなところで僕の顔に被せられていた布は取られる。

数時間ぶりの光を浴びた僕の両目はしぱしぱしてしまうけれど、それにもすぐに慣れて、叔父さんを探すためにキョロキョロ左右に動かす。
で、すぐに発見。目の前にいた。