10年以上前の話です。
当時、小学生だった私は家族と一緒に海へ出かけていました。
地元の海で、田舎ということもあり、人はそれほど多くなかったと思います。
海ではしゃぎ疲れた私は、家族と離れて、休憩がてら砂浜や岩場を一人で散策していました。
しばらく歩いていると、茂みの奥から「おーい、おーい」と、男の人の声が聞こえてきました。
その声は生気がなく、ほとんど唸り声のようなものであり、まるで無意識の中で人を呼んでいるような声でした。
不気味に思い逃げようとしましたが、茂みの奥には何があるのだろうという好奇心から、見てみることにしました。
そこには、砂風呂をしているのか、頭だけを出した20代ほどの男性がいました。
男性は1人で砂の中に埋まっており、周りには男性を埋めたであろう人も、陽の光を遮るパラソルさえもありません。
きっと、この太陽がジリジリと容赦なく照りつける真夏日に、放置されているのだろうと思いました。
男性はかなり顔色が悪く、ほぼ意識がない状態でした。恐怖と混乱の中で「このままでは死んでしまう!」と思い、パニックになっていました。
急いで近づき、男性の上半身付近を思い切り掘りました。
しかし、どこにも身体は見当たりません。
そのとき、男性が「ん゛んーーーーー」とうめきながら泡を吹き始めました。
もうそのときには私は恐怖で極限状態になっており、気づけば砂を掘るのをやめて、その場から逃げていました。
この事は家族には言いませんでした。
もし本当にあの人が死んでいたら、助けなかった私が殺したようなものだと、子どもながらにそう思ってしまったからです。
時が経ち、大人になった今、何気なくYouTubeを眺めていたときのことです。
とある事件を解説する動画が流れてきました。
大学のサークル仲間にふざけて”縦に埋められた”20代の男性が、身動きの取れないまま熱中症で亡くなった──
あの砂浜での事件でした。
あの男性の顔、こびりついた砂、焦点の合わない乾いた目、忘れません。
しかし、私は男性を助けなかったことを後悔していません。
なぜなら、男性が亡くなった日は、私が発見した日よりもずっと前のことだったから。























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