これは、あくまで噂レベルの話です。
私が昔住んでいた町に、古びた商店街がありました。
その頃にはもう寂れていて、シャッターが降りた店ばかりでしたが、その中にひとつだけ妙に活気のある肉屋があったんです。
日替わりで開いたり閉まったりする気まぐれな店だったんですが、開いていればあっという間に売り切れる人気ぶり。
特にひき肉が人気で、牛・豚・鶏の切れ端を全部ごちゃ混ぜにしてあるから、とにかく安い。それでいて味も悪くなかったんです。
ただ、この店には昔から、ひとつだけ妙な噂がありまして。
それは「あそこのひき肉には、人の肉が混じってる」っていうやつでした。
…もちろん、誰も本気で信じてる訳じゃなかったですよ?
「ホームレスや、行方不明になった認知症の年寄りの肉だとかが混ぜてあるから、あんなに安いんだ」なんて不謹慎な冗談を学生が言い合ってただけです。
けど、なぜかその噂は長く残っていて「火のないところに煙は立たない」なんて囁かれていたのも事実。
というのも、ひとつ、きっかけになるような事件があったそうなんです。
近所の高校の男子生徒が、学校帰りにその店のメンチカツを買って食べたところ、口の中に変な異物感があって、吐き出してみるとそれはどう見ても人の爪。
騒ぎになって調べた結果、その店でバイトをしていた人がミンチ機に誤って指を突っ込んでしまい、切断してしまったと。
でも「怒られたくないし、バレないと思った」と、痛みをこらえてそのまま混ぜた、なんて話が出てきたそうなんです。
いや、バカな話ですよね。
私も当時は作り話だろうと思ってました。
でもその後、私が食品工場で短期間バイトしてた時に、何の気無しにその話をしたら先輩からこう言われたんです。
「製品に指が混ざって出荷された例、過去にほんとにあったんだよ。事故の事例として有名なんだ」って。
結局その肉屋は、店主が高齢になったタイミングで閉店しました。
息子さんは後を継がなかったらしく、店舗を処分するために解体を進めたところ、自宅部分の床下から大量の骨が出てきたそうです。
……何の骨かまでは分かりません。
私はその頃にはもう別の地方に引っ越していたし、その話だってあくまで人伝てに聞いたものです。
でも、さっきも言ったとおり、火のないところに煙は立ちません。
例えば、拾った動物や盗んだペットをこっそり混ぜてたとか……それくらいならありそうじゃないですか。
そういうことを、当時バイトしてた人がぽろっと言ってたと、噂で聞いたことがあります。
ええ、全部ただの噂ですよ。信憑性のない、どこにでもある町の都市伝説です。
……でも私、今でもスーパーでひき肉を選ぶときに、ふと思うんです。
あの店のひき肉と比べて、スーパーのひき肉って雑味がないよなぁって。
























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