彼女は、いつも教室の一番後ろの席にいた。
出席番号は“30番”。
けれど、クラスは29人。名簿にもその番号の生徒はいない。
担任も誰も、30番の存在に触れようとはしなかった。
けれど、毎朝のホームルームでは、30番の席にだけ、プリントが一枚分多く配られていた。
「印刷ミスよ」
そう笑う先生の声が、どこか不自然に揺れていた。
でも、私たちは“知っていた”。
30番の席には、確かに“誰か”がいた。
話しかける子はいない。名前も呼ばれたことがない。
でも、あの席の周囲だけ、空気が冷たく、床が濡れていた。
チョークが勝手に転がる。
黒板の端に「ナミエ」と爪で引っ掻いたような跡が浮かぶ。
ある日、クラスの中で“いじられ役”だった男子が、その席にふざけて座った。
「30番さん、おはようございまーす」
そう笑った次の瞬間、彼の椅子が音もなく倒れた。
それから、異変が始まった。
彼の筆箱が消えた。見つかったときには、水に濡れて、引き裂かれていた。
ノートの文字が勝手に書き換えられていた。「かえして」「かえして」と繰り返し。
ある日、彼はぽつりと呟いた。
「誰もいないのに……毎日、後ろから覗かれてるんだよ……」
そして突然、学校に来なくなった。
その翌日から、30番の席にプリントが再び置かれるようになった。
机には、ぐしゃぐしゃに濡れた彼の筆箱。まるで、戻ってきたように。
次に消えたのは、誰かを陰で笑っていた子。
声が出なくなった。医者でも理由はわからないと言った。
ある女子は、ある日突然、鏡の前で自分の顔を殴り続けた。
止めに入った先生の前で叫んだ。
「30番が……笑ってたの!!」
最後の学期末。
名簿に、新しい名前が赤いインクで書き加えられていた。
























俺の出席番号29