井上さんが20代の頃、ステーションワゴンがブームになっていた。井上さんもそのブームに乗っかり、中古のステーションワゴンを購入。
大きいタイヤやサスペンション、当時は珍しかったテレビまでついており、快適なカーライフを送ろうと期待に胸を膨らませていた。
購入から1ヶ月ほど経った頃のこと。
井上さんは箱根で仕事があったので、その帰り道に神奈川県にある西湘バイパスをそのステーションワゴンで走っていた。
すると突然、エンジンが止まってしまったのだ。停められそうな場所に寄せて車を降りて見てみると、すべてのタイヤからモクモクと白い煙があがっているのを確認した。
「エンジンの問題か?」
と思いエンジンルームを開けてみるが異常はない。
しかし、キーを回してもセルモーターは回らない。当時は携帯電話を持っていなかったので、どうしたものかと立ち往生してしまう。
30分ほどした後、改めてキーを回してみると、何事もなかったかのようにエンジンがかかったのだ。その後は順調に走り続け、異常もみられなかった。
だが、また同じようなことになってしまっては困るので、この車を買った中古車販売店に行き事情を話すことにした。
「わかりました。では、代車を用意しますのでしばらくお預かりさせて頂きます」
翌日、整備工場から驚く事実を聞かされた。
-全く異常が見られない。
そんなことがあるはずがない。だって、実際に止まってしまったのだから。止まってしまったこと、タイヤから白い煙が出ていたこと、キーが回らなかったことを話しもう1度点検を申し込むと「では、1週間ほどお預かりします」と言われ、引き続きお任せすることに。
1週間後、整備工場から
「井上さんの言う通り止まってしまいました。再度、コンピューターや電気系統を見直しているので、まだもうしばらくお預かりします」
と返事が来た。
その2日後。なんと中古車販売店から
「購入金額のプラス30万円で買い取らせて頂きます。ご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんでした」
と言われてしまったのだ。
「どういうことですか?」
と説明を求めると次のような返答が返ってきた。
「整備工場では問題が特定できず、前のオーナーのことについて調べてみたら、車の中で心臓発作をおこし亡くなっていたことがわかりまして。ほんと、稀にあるんですよ。原因のわからない事例が」
交通事故にあってしまった車を事故車というが、事故車と呼ばれる理由は、交通事故意外にもあるのかもしれない。
もしも、あのまま乗り続けていたら。
























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