──これは、祓えなかった話です。
いや、正確には──“祓った”と思わされた話です。
それ以来、毎夜、私はあの子の目を夢に見る。
口は笑っている。目も笑っている。
──だが、あれは笑顔ではなかった。
名を出すのもためらわれるが、仮に「廉(れん)」としておこう。
まだ七歳、母親に手を引かれ、私の元を訪れた。
玄関をくぐった瞬間、空気が歪んだ。
家の奥で飼っていた猫が、なぜかひと鳴きもせず消えた。
母親は泣いていた。
「朝から……笑ったまま、何も喋らないんです……」
その声が、なぜか後ろからも聞こえた気がした。
廉は、じっと仏壇の上の壁を見ていた。
私にも、そこには“何か”がいる気がした。
だが、見えてはいけない気がして、視線をそらした。
祓いの詞を唱え始めたとき、彼の背後に“もう一つの肩”が揺れた。
影のように。けれど、影よりも濃く、厚く、濡れていた。
「“それ”が入ったのは、いつからですか?」
母親は答えなかった。
長い沈黙のあと、かすれる声で言った。
「古い……神社の祠……森の奥……誰もいないと思って……遊びで……」
私は、式を始めた。
何百回も繰り返してきた祓いの手順──のはずだった。
だが今回は、詞のたびに室温が下がった。
言霊が口を出るたび、“誰かに聞かれている”感覚が強くなった。
終わったとき、廉はまだ笑っていた。
口は動かない。
だが、笑みの“形”が──人のものではなくなっていた。
「……終わったんですか?」
母親の声に、私は頷くことしかできなかった。























ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ人生おわた⭐︎