駅前に一際目立つ居酒屋がある。しかし私の知っている人の中に、そこへ行った人はいない。無論レビューサイトにも、一件もレビューが載っていない。ということで、興味があるので友人と行ってみることにした。
店の中は殺風景で、少し生臭さが残っていた。誰一人いない店内は快適だったが、同時にどこか不気味だった。
二人並んでカウンター席に座り、メニュー表を読んだ。メニューは意外と充実していて、写真を見る限り味がいい、新鮮、安価でかなり良さそうだ。しかしメニュー表の中に、一つ謎なものがあった。
「【当店限定サービス】シークレット定食 500¥」
このレシピだけ写真が黒塗りになっていて、好奇心が湧いた私はそれを頼むことに決めた。
友「あの、注文いいですか。
このシークレット定食を一つと、
刺身セットを一つ、焼き鳥のももを二つと
ビールLサイズを二つお願いします」
店員「かしこまりました。
刺身セットが一つ、焼き鳥のももが二つ、
ビールLサイズを二つですね。
申し訳ありませんが、本日はお手洗いに行かれるお客様がいないため、シークレット定食はご提供できません。他にご注文はありませんか?」
友「なら、刺身セットをもう一つお願いします」
注文が終わった後、友人がヒソヒソと話してきた。あの店員、変なこと言ってなかったか?と。でも私は店員の話なんてほぼ聞いていなかったため、適当に受け流していた。
ビールと刺身が提供されると、酒豪の友人はあっという間に酒を二杯飲んで、刺身をもぐもぐと頬張り出した。友人とは久しい仲なので、高校時代の思い出や、職場でのことなど、雑談を交わした。
そうして刺身を食べ終わった頃、友人がトイレに行きたいと言い出した。ほら、酒をそんなに飲むから。酔ってフラフラとトイレに向かう友人の姿を見届けて、スマホに目をやった。すると突然、
「お客様、シークレット定食の在庫が増えました。今からでもお作りしましょうか?」
と店員から声をかけられた。刺身の量もあまり多くなく、何より友人との話のタネになると思った私はそのシークレット定食を頼んだ。
40分ほど待ち、ようやくシークレット定食が出てきた。本格的な肉料理で、脂は少なく淡白な感じだ。でも、まだ友人はトイレから出てきていない。
結局友人がトイレから出てくる前に、私はシークレット定食を平らげてしまった。友人はどうせ会計をサボって逃げたんだ。昔からそういうやつだったから。ラインも既読がつかないし、これは確信犯だ。でも金だけはあるので、料金を支払って友人宅へ向かった。
そこには友人はいなかった。私の家にもどこにもいなかった。あれから数ヶ月経った今でも、友人は見つからない。一体どこへ行ったのだろうか。























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