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ヒトコワ

君尋さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

記憶違い
短編 2025/05/01 10:49 1,089view

私の両親は所謂毒親で、良い思い出がありません。
我が家は私と弟の2人姉弟なんですが、小さい頃から2人揃って親の顔色を伺う生活をしていました。

今では親元から離れ、お互いそれなりに普通の幸せを手に入れているのですが、幼少期の弟の記憶に齟齬がある事がわかりました。

なんでも、弟は小さい時に家族で楽しく旅行をした記憶があるのだそうです。浴衣姿の両親、私と海辺で貝殻を拾って遊んだ記憶、夜の祭りの綺麗な景色。

しかし、私にその記憶はありません。

私の記憶では、両親は普段は家に居らず、偶に帰れば罵声暴力で部屋の隅で小さくなっていた事。中学以降は金を出すのが勿体無いという理由で進学も危うかった事。それを見かねた親戚に引き取られ、以降両親とは会っていない事。

そして、時折親戚宅に「いいかげん子供を返せ、面倒を見させろ」とふざけた連絡をしてくる事。

「家族で楽しく旅行」の記憶なんてどこにもありませんし、そんな事ありえないと言い切れるような家庭だったんです。

「実家での暮らしがあんまりにも酷かったから、なんか幸せな妄想でもしてたんじゃない?」
「そっかぁ、俺は結構ハッキリ覚えてんだけどなぁ…」

なんでも、弟は結婚を意識している彼女がいるらしく、どう家族の事を説明するか悩んでいたそうなんです。
実家の事をグルグル考えていたら、不意に旅行の事を思い出した。だから私に確認の為、会いにきてくれたんですね。

結婚ともなれば、どうしたって親の事は話さなければいけません。だから、正直に話して受け入れてくれる事を祈るしかない。
そんな話をして、その日は終わりました
確か、去年の初めの方だったと思います。

今日、弟が結婚した事を親戚から聞きました。入籍だけしたのかな?それにしても紹介すらしてくれないのおかしくない?などと考えていたら

「お式の写真も見せて貰ったけど、とても素敵な式だったみたいよ?ご両親と新婦さんと、幸せそうな顔で写ってらしたわ」

「あなたも、はやく良くなると良いわね。ご両親も弟さんも、心配していたわ。いつまで姉は入院生活を続けなければいけないのかって」

…私の幼少期は、恵まれたものではありませんでした。優しい両親に優しい弟。私の素行だけが悪く…いえ、違います。いつも何かにつけて私が悪いことにされました。いつも怒られ、酷い時は泣きながら母が私を叩いて。
そう、私の親は、毒親だったんです。私は、小さい頃から両親に虐げられて暮らしていました。そうで無ければおかしい。そうじゃなければ、私がここにいる理由に説明がつかない『親戚の家』にいる理由に説明がつかないんです私は悪くない私はおかしくない私は正しい私はいつも被害者で

「ちょっと松島さん!!なんで伝えたんですか!?最近落ち着いて弟さんともお話しできるようになってきてたんですよ!?」
「良い加減彼女には現実を見せるべきです!身勝手な被害妄想で自殺未遂!それを両親の所為だと思い込んで何年目ですか!?」

近くで言い合う声がする、これも両親が喧嘩してる声に違いない。子供の前で怒鳴り合いの喧嘩、やっぱりあの人達はおかしいんだ。

つまり、私は何も、悪くない。

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