鏡の中の異世界

ある日、少女の美咲は祖母の家の屋根裏部屋で古い鏡を見つけました。その鏡は、長い間誰も触れていないようで、埃が積もっていました。美咲はその鏡を拭き、鏡の中を覗き込みました。すると、鏡の中には自分の姿が映っているはずなのに、何かが違うことに気づきました。

鏡の中の美咲は、現実の美咲とは異なる服を着ており、背景も見慣れない場所でした。美咲は不思議に思い、鏡をもっとよく見ようと顔を近づけました。その瞬間、鏡の中の美咲が微笑みかけ、手を差し伸べてきました。驚いた美咲は一歩後ずさりしましたが、好奇心に勝てず、再び鏡に近づきました。

「こんにちは、美咲」と、鏡の中の美咲が話しかけてきました。「私はあなたのもう一つの姿。こちらの世界に来てみない？」

美咲は戸惑いながらも、鏡の中の世界に引き込まれるような感覚を覚えました。彼女は手を伸ばし、鏡の表面に触れました。すると、鏡の表面が波打ち、美咲はその中に吸い込まれていきました。

目を開けると、美咲は全く異なる世界に立っていました。そこは美しい花々が咲き乱れる庭園で、空は鮮やかな紫色に染まっていました。美咲は驚きと興奮で胸がいっぱいになりましたが、同時に不安も感じました。

「ここはどこ？」美咲は声に出して尋ねました。

「ここは鏡の中の世界。あなたが望んだ場所よ」と、鏡の中の美咲が答えました。「ここでは何でも思い通りになるの。さあ、楽しんで！」

美咲は最初はその言葉を信じ、鏡の中の世界を探検しました。彼女は空を飛び、動物たちと話し、美しい景色を楽しみました。しかし、次第に彼女はこの世界の奇妙さに気づき始めました。時間が経つにつれて、彼女は家族や友人たちのことを思い出し、現実の世界に戻りたいと強く願うようになりました。

「もう帰りたい」と、美咲は鏡の中の自分に訴えました。

「帰る？ここがあなたの望んだ場所なのに？」鏡の中の美咲は冷たく笑いました。「一度こちらに来たら、戻ることはできないのよ。」

美咲は恐怖に駆られ、必死に鏡を探しました。しかし、鏡はどこにも見当たりませんでした。彼女は絶望的な気持ちで座り込みました。

その時、美咲の耳に微かな声が聞こえました。「美咲、聞こえる？」それは現実の世界からの声でした。美咲はその声に向かって叫びました。「助けて！ここから出して！」

声は次第に大きくなり、美咲はその方向に向かって走り出しました。すると、突然目の前に鏡が現れました。美咲は全力で鏡に飛び込みました。

次の瞬間、美咲は祖母の屋根裏部屋に戻っていました。彼女は息を切らしながら周りを見回しました。鏡は元の場所にありましたが、今度は何も映っていませんでした。

美咲はその鏡を二度と触れないと心に決めました。彼女は家族の元に駆け寄り、無事を確認しました。鏡の中の世界は美しいものでしたが、現実の世界の大切さを改めて実感したのです。