キッチン
投稿者:horiedon (6)
これは、高校の頃に担任の先生から聞いた話です。
今から20年ほど前、先生は旦那さんと生まれたばかりの息子さんと共に、その家に住み始めました。
格安で紹介してもらった物件で、正直な所、裏があるかもとは思ったものの、当時は収入も低く、駅や商店街へのアクセスを考えると逃すにはあまりにも惜しかったそうです。
生活にも慣れ始めた夏、先生はあることに気づきました。
他の部屋は暑さのあまり無意識にクーラーをつけていた一方で、キッチンのクーラーをつけた事はほとんどありませんでした。
つまり、キッチンが異様に涼しかったのです。
気付いてしばらくの間は、窓の近くだから?換気口の近くだから?と色々考えたそうです。ただ、夏場で涼しいのに越したことは無いのでそれ以上意識する事はありませんでした。
ある日、先生が旦那さんとテーブルで夕食を囲んでいると、ベビーベッドにいる息子さんが泣き出したので、先生は面倒を見るためにテーブルを離れました。
赤ん坊を落ち着かせた後で先生がテーブルに戻ると、旦那さんが真っ青な顔をして目を見開いています。
先生が驚いて、どうしたのか尋ねると、彼は無言でゆっくりとシンクの方を指さしました。
そこにはシンクの内側から縁にかかる、爪の剥がれた真っ白な4本の指が見えたそうです。
しばらく呆然としていた先生は、ふと我に返ると、息子さんを抱えて旦那さんと車に乗り込み、無我夢中で2時間ほど離れたところにある旦那さんの実家に転がり込みました。
そして、結果的には家にその筋のお坊さんを呼んで除霊してもらう事になったのです。
お坊さんの祈祷の甲斐あってか、それ以降、変なものを見ることはありませんでした。
しかし、冬に入ったころ、今度はシンク下の扉の中から、素早くカチカチカチカチいうような音が鳴っているのに気付いたそうです。
タイマーでも置き忘れたかな、と前かがみになって扉を引き、中を見ようとしゃがもうとしたところで、先生は凍り付きました。
シンク下には洗剤のボトルがしまい込んでありましたが、その隙間から縮れた髪の毛の束がこちらに伸びているのが分かったからです。
それより奥を覗くことは先生にはとてもできなかったそうです。
それから、先生ご一家はすぐにこの家を引き払いました。
締めに先生はこんな話もしてくれました。
というのも、つい最近、その家の近くで用事があった為、興味本位で家の場所がどうなっているか見に行ってみたというのです。
かつては昭和の名残を感じた商店街も、アーケードや建物の改築が進み、よりおしゃれで活気づいた街になっていました。
民家の一階を改造したようなお店もたくさんあり、先生はあの家のあった場所には今何があるのか、少しワクワクしつつ向かったそうです。
ところが、両隣のいかにも建売っぽい家に挟まれるようにして、その家は以前と何も変わらない様子でまだそこにあったのでした。門のところに表札はついておらず、何年もだれも住んでいないようでした。
案の定、あのときの嫌な記憶を思い出してしまった先生は、踵を返して駅に向かおうとしました。
その時、先生は全身がビクッと総毛立つような感覚に襲われたのです。
背後の、どこか高い所から誰かがじっとこちらを見ている・・・ちょうど道路を見下ろせるキッチンの窓のあたりから・・・
その場所にはもう間違っても二度と行かない、とのことだそうです。
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