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ヒトコワ

うずまきさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

9号室:マンインデンシャ
短編 2024/07/22 01:47 720view
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その日も見事に通勤ラッシュに巻き込まれ、乗った電車はすし詰め状態。
何とかドア前に居場所を確保し、目的の駅まで20分程、忍耐との戦いが始まる。

流れ行く車窓からの見慣れた風景をなんとなく眺めていると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「んぐゥ、フーゥ。」

声の主を視線で探ると、すぐ傍に立つ男だと気付いた。
中肉中背、背はおれより低め。フレームが太い黒縁メガネをかけて七三に分かれた前髪がフワフワ揺れている。着ているのは少しシワが目立つ長めのコート。色はアイボリー。
その男は電車が揺れ、人に四方八方から押される度に喉の奥から低く声を漏らしていた。

一瞬、痴漢かと思ったが、周りにそれらしき女性はいない。

『朝から最悪だなァ…。』

気味悪い様子が嫌でも目に飛び込んでくる。
満員電車の揺れに身を委ねて押し潰される感覚を楽しんでいるかのようだった。
声は不規則に変わらず続いている。

「んフゥ…グゥ…。」

漸く目的の駅に着くと、開いたドアから一気に大量の人が飛び出てくる。押されるようにおれも降りたが例のコートの男も降りていた。

人の波を避けながら、男は改札に向かおうとはせず、ホームに留まっている。
人の波に続いて改札を目指すおれに向かって、そいつは着ていたコートを開いて見せた。

露わになった上半身は裸。
そしてほぼ全面が真っ赤な血に染まっていた。

開いたままのコートの内側には、血で不気味に染まった剥き出しカミソリの刃が無数に貼り付けられていた。
男は満員電車の揺れを利用して、自らの身体を切り刻んで不気味な声を漏らしていた。

その存在に気付いた人達が次々に悲鳴や奇声を発している。
言いようのない不快さを覚えながらおれは改札へ急いだ。

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