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ヒトコワ

綿貫 一さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

視線
長編 2024/02/07 23:26 5,407view

深夜、マンションに帰宅した僕に、青い顔をした妻が駆け寄ってきた。

「あなた! 今すぐ引っ越しましょう!」

「なんだい、藪から棒に。まだ『ただいま』も言っていないのに」

「じゃあ、早く言ってちょうだい!」

「ただいま」

「おかえり! それじゃあ、早く引っ越しましょう!」

「待って待って。
なんだって急に、引っ越すの引っ越さないのって話になるんだい?」

「私は引っ越さない話じゃなくて、引っ越す話がしたいのよ!」

「僕は、どうして君が急に引っ越したいと思ったのか、その原因の話がしたいんだよ」

「それが今、重要なことなの?」

「重要なことだと思うけど」

「いいえ、重要じゃないわ! 身の回りに危険が迫ってるって時に、重要なのは原因じゃないわ! その場から、すぐに離れることよ!」

「ここが危険だっていうのかい?」

「危険……かもしれない。
ううん、危険よ! あの子に何かあってからじゃ遅いんだから!」

「イチカに――?」

イチカは、2歳になる僕らの娘だ。

「そうよ。だからお願い、引っ越しましょう? 
あなたが会社に行っているときに、また何かあったら、今度は私だけじゃ対処できないかもしれない」

「『また』? 『今度』?」

「股とかコンドルとか、ふざけている場合じゃないのよ!」

「ふざけてなんかいないよ。とにかく一旦落ち着いて。
ほら、深呼吸してごらん? はい、吸ってー、吐いてー」

「(スー、ハー)
ごめんなさい、取り乱して。すっかり落ち着いたわ」

「それはよかった」

「それじゃあ、早く引っ越しましょう! ハリー!ハリーッ!」

「全然だめじゃないか。
それで、いったい何が起こったっていうんだい?」

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コメント(2)
  • 綿貫です。
    それでは、こんな噺を。

    2024/02/07/23:27
  • 最後の一行、、おしい

    2024/03/19/17:24

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