パタンパタン
投稿者:haruton (25)
小学二年生から小学三年生の夏まで私達家族は川辺近くのアパートに住んでいた。
そのアパート、そこまでボロくはなかったんだけど、トイレが和式だったんだよね。なかなか和式トイレは使いにくかった。
そんなアパートだったけど、ベランダから山が見えてさ。なんとなくその山を見て、たそがれたりして…そういう好きな所もあったわけ。ベランダから見える川の向こう側に公園が見えて、春になると桜の木がピンク一色に染まってキレイだった。つまりベランダとそこからの眺めは悪くなかったのよ。
ーーある一点を除いては、ね。
夜は家族揃って川の字になって寝ていたんだよね。しばらくすると私の耳にはイビキが聞こえた。親が寝ちゃったのが分かった。私もそろそろ瞼が重くなってきた…寝そうになった瞬間聞こえてきたんだ。
パタンパタンーー。
私はその音のせいですっかり眠気が覚めてしまった。全くなんだよあの音と思い、また目をつぶると。
パタンパタンパタン。
またあの音が聞こえる。
パタンパタン。
どうやらあの音…サンダルの足音のようだ。
皆様もよくベランダにサンダルを置いているでしょう?あのサンダルの音が聞こえてくるんだよ。
しかも足音の主は何故かベランダで往復しているみたいなんだよね。隣の人がタバコを吸う為に外に出ているのかと思ったのね。でもまだまだパタンパタンと往復しているんだよ。
私は煩いなと思いながら寝るのに全集中した。そしてそのうち眠りに落ちた。
ーーでもその日から毎晩毎晩あのサンダルの音が聞こえるようになったんだよ。
パタンパタン。あの音が聞こえるのは午前0時すぎーー親が寝静まった頃に聞こえてくるんだよ。ある晩では長い時間ずっとあのパタンパタンという音が外から鳴り響いたときもあって、流石の私もあの音に対して違和感を覚え始めていた。
いくらタバコを吸うためにベランダに出ていたとしても長すぎるし、それに足音が煩い。それにタバコを吸うときって往復しながら吸うものなのかな?
もしかしたら。
いやいやまさか。でも。
自分の気のせいだ。私はついに真夜中の足音の事を母に尋ねてみた。真夜中にサンダルの音が聞こえるよねって。すると母は聞こえたことがないと答えたんだよね。
私の嫌な予感がますます強くなった。そしてついに父にも聞いてみたんだよ。案の定、父もそのサンダルの音を聞いたことがないようだった…。
ということは私だけ聞こえているんだ。
それを理解した途端、夜が怖くなった。
あの足音が耳に入ってくるまで私は早く眠らなくてはならない。あ、また聞こえてくる。
パタンパタン。
私はもう少し早く寝るようにした。
早寝したおかげか、しばらくはあの足音を聞かずにすんだ。ようは気合いだ。それでもなかなか眠れない夜もあった。また聞かなくてはいけないのか。私は身構えた。
しかしあの足音は聞こえてこなかった。
幸いなことにもう聞こえなくなった。
あれは一体なんだったのだろうか。何故ある日突然聞こえてきて、ある日突然聞こえてこなくなったのだろうか。今でも不思議な体験だ。
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