一夜の山
投稿者:藍咲 青 (11)
近所のおじさんから聞いた話です。
今から約7、80年前の事、現在自分が住んでいる土地周辺一帯と複数の山を所有する地主がおりました。当時の日本は戦中戦後の動乱の真っ只中にあり田舎の集落に住む方々は非常に貧しい生活を送っていて小さな田畑を耕し日々の生計を何とか立てる暮らしをしていました。ですがそれだけで暮らせる程の収穫がある訳ではなく集落の人は時々、土地を担保に地主から金を借りる事があったそうです。借用の条件として貸した金を約束の期日までに返さないと如何なる理由があろうと所有する田畑を没収するという条件を付け地主は人々に金を貸していました。ですがこの地主、返済日になると居留守を使い家の門に閂を掛け1日中家に閉じこもり金を受け取らず「約束を反故にした罰だ!」と土地を奪う事を繰り返しており、最悪なことに地主の家族も「借りた本人に返すのが筋だろう」と言って取り合う事さえ無かったそうです。このような事を続け所有する土地が山4つ分程にまでになり「一晩隠れれば手に入る、まさに一夜の山よ!」と嘲笑混じりに周囲に自慢していたそうです。一方で地主の罠に嵌り土地を奪われた人たちですが、その多くが路頭に迷い病死や餓死、一家心中、中には人買いに身を売る人までいたそうでかなり多くの人の恨みを買っていました。
そんな悪魔のような地主一家にようやく天罰が下る出来事が、まず子供たちに目や精神の病気が多発しまともな生活が送れない身体に、次に地主の奥さんが「毎晩、部落民に殺される夢を見る」と喚きだし、しばらく後に自殺。そして当の地主は両足のくるぶしにコブ(恐らく骨肉腫の類い)が出来て激痛が伴うように。当時の医療では手の施しようがなく「今すぐ首を絞めて殺してくれェ!!」と毎日のように叫び続け寝たきりになり結果亡くなるまでの約2年間苦しみ悶え続け最期の方には枯れ枝のような身体になり足だけが象のような状態になりかなり異様な身体へとなっていたそうです。
この一連の出来事をおじさんは幼い頃から両親に聞かされており「何があっても人を虐めたり騙したりしてはならねぇ!人の恨みってのは何よりも怖いんだ!」と言われ育てられたと語っていました。
ここからは後日談になりますが、この地主一族は未だご健在の方がいるのですが皆一様に目の病気や精神疾患、若くして病気や事故で亡くなる方がいて当代で一族断絶になると言われる程『祟られている』としか思えないような有り様、そして「病気で土地の維持管理なんてとても出来そうにない」と現在2代目となる息子さんが漏らしており皮肉にも「こんなに土地なんか要らない…。誰でも良い、100円でも良いから土地を買ってくれないか」と病気の身体を引きずりながら周囲の人たちに話しを持ち掛ける日々を送っていると聞かされました。
先代が子孫の為を思ったのかまでは知りませんが人を騙し嘲り、間接的にではありますが多くの人を死に追いやってまで土地を手に入れ、結果自身の破滅に留まらず子孫代々にまで祟りが及ぶというなんとも言えない状況を聞かされ人の恨み、業というモノは何時まで経っても消えないのだと感じるのと同時に騙され人生を狂わされ、死後ただ祟りを振り撒く存在に成り果ててしまった人の事を思うと非常に胸が痛みます···。以上が近隣の集落一帯に伝わる話しです。
あこぎなやつも、いるもんだ。