電話の向こうから
投稿者:take (96)
数年前の話です。
大学時代の先輩の妹・R美さんが、ある合コンに参加しました。
参加する男性側が医者限定の合コンだったようで、R美さんは、そこで三十代半ばの外科医の人と懇意になり、連絡を取り合うようになったのです。
R美さんは24才で、すこし年は離れているものの、相手は見た目もサワヤカで、話も面白く、ちょっといいなあと思い始めていました。
お医者だから経済的にもしっかりしてるし、という打算的な気持ちもあったといいます。
何度かデートもし、ラインや電話で毎日やり取りもするようになったころ。
彼と電話で話していると、後ろのほうで小さな声のようなものが聞こえてくるのに気づいたのです。
最初はネコかな、それともオウムやインコがギャーギャー鳴いてるのかな、と思いました。
しかし、デート中や電話でそんな話題が出たことはありません。
「ネコか、小鳥みたいなペット飼ってます?」
と訊いたら、飼っていない、とのこと。
「そうですか? なにか動物の声みたいなのが聞こえるんですけど」
と、言っても、いや、僕には何も聞こえないよ、と言います。
そのときは、回線の調子が悪いのかな、と思い、それで終わったのですが、
電話するたびに、その鳴き声が聞こえるようになり、だんだんとハッキリしてきたのです。
それは人間の赤ん坊の泣き声だったのです。
R美さんがそれを伝えると、彼はしばらく無言になり、今日はこれで、と慌てて通話を切ったそうです。
二、三日、メールやラインだけでやり取りして、今度会わないかと彼のほうが言ってきました。
R美さんは承諾し、指定された時間に彼と会いました。
食事をしたあと、ショットバーに行き、そこで、
「実は……」
と、彼が自分の過去を打ち明けたのです。
彼には医学生時代、付き合っていた彼女がいました。
彼も彼女も実家を出て一人暮らしをしており、お互いの部屋を頻繁に行き来していました。
そのうち、彼女が妊娠してしまったそうで、ふたりはどうしようかと何度も話し合い、お互いに学生だし、産まないことにしようと決めたのです。
もちろん、何年か後には結婚しようと思っていました。
しかし、そうするまでもなく、彼女は流産してしまったのです。
彼女はしばらく入院し、無事に退院しましたが、体の調子があまりよくないことが多く、また精神的にも不安定になってしまいました。
そのうち、学校にも行かなくなり、部屋に引き篭もりがちになったのです。
彼に対しても、しょっちゅうヒステリックな対応をし、泣き叫んだり罵倒したりするようになりました。
赤ちゃんの声かあ・・・