私が小学校4年生の時の話です。
近所にあった書店は規模が小さく、あまり品揃えはよくありませんでした。
欲しい本がない時は、少し離れたところにある大きな書店まで足を伸ばしていました。
途中に大きな開発グラウンドがあり、いつも子供達が野球やサッカーなどを楽しんでいました。
梅雨どきのある日、その書店で目当ての本を購入した帰り道のことです。
雨が止んだばかりで、曇天もようの薄暗い夕刻でした。
グラウンドに差し掛かりましたが、遊んでいる子供はひとりもいません。
大小いくつもの水たまりができていて、中心部には池のような巨大なものがあり、
それを近くで見たくなった私は、グラウンドに足を踏み入れました。
泥が跳ねないように注意しながら、大きな水たまりのそばまでいきました。
その時の記憶なので怪しいですが、体感では10m近くあったと思います。
とはいえ、ただの大きな水たまりです。
すぐに飽きて戻ろうとした時、
私が入ってきた反対側の方から、パシャン、と水音がしました。
パシャン、パシャン、パシャン……
それは連続して起き、だんだんと近づいてきます。
誰かが悪戯して石でも放り込んでいるのかと思いましたが、周囲には誰もいません。
大きな水たまりの、私から一番遠い位置でバシャ! と水飛沫が立ちました。
姿の見えないモノが迫ってきている!
私は踵を返し、もと来た方向へ走り出しました。
バシャ! バシャ! バシャ!
私の後を追うように水音も早くなります。
グラウンドから、アスファルトの道路へ走り出て、振り返りました。
パシャン……
一番近くにある水たまりが水飛沫をたて、静かになりました。
まるで人が立っているみたいに、ゆらゆらとふたつの波紋が広がっています。
姿の見えないモノはグラウンドから出ず、私をじっと見つめているようでした。
慌ててその場から走って逃げ帰りました。
泥濘のグラウンドを全力で走ったので、ズボンも服も泥だらけになっていました。
家に帰った私は散々母に叱られましたが、本が汚れていないことに安心したのを覚えています。
























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