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ヒトコワ

リュウゼツランさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

二人の祖母
短編 2023/01/16 11:55 2,000view
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僕にはおばあちゃんが二人いて、一人は田舎に住んでいる母方の祖母「千代ばあちゃん」、もう一人はその祖母の義理の妹「清子ばあちゃん」だ。
千代ばあちゃんは弟の嫁である清子ばあちゃんと仲が良く、田舎から東京に出てきては妹の家に泊まりに来ていた。
二人ともいつも優しくて、お小遣いをくれたり遊んでくれたりと、絵に描いたような、理想的な孫想いのおばあちゃんだった。

僕は社会人になってもよく遊びに行っていて、その日も東京のおばあちゃんの家に遊びに行っていた。
ちょうど千代ばあちゃんが田舎から来ていたこともあり、いつもより贅沢な料理が並び、お酒を飲みながら談笑していた。
でも、千代ばあちゃんは缶ビール一本だけ、清子ばあちゃんはお酒が飲めないのでウーロン茶を飲んでいたので、結局僕がひとりで酒盛りしていたけれど、二人は「仕事大変だから飲んで忘れな」と労ってくれて、僕も調子に乗って結構飲んでいた。

その後、泥酔していた僕はこたつで寝てしまい、ばあちゃんはそれぞれの部屋で休むことに。

深夜一時頃だったか、「何してんだ!」という怒鳴り声で僕は目を覚ました。
何事かと千代ばあちゃんの部屋へ行くと、真っ暗な部屋のドア付近で清子ばあちゃんが立っている。「それでどうするつもりだ!」と千代ばあちゃんが指差した先には、包丁を握る清子ばあちゃんの手があり、僕は混乱する。

「やれるもんならやってみろよ!」
興奮する千代ばあちゃん。僕はお酒のせいもあり、黙って状況を見守りながら何が起こっているのかを冷静に判断しようとするけれど、微動だにしない清子ばあちゃんは無言のまま包丁を握りしめ立っている。
しばらく睨み合い、というか、睨んでいたのは包丁を向けられた千代ばあちゃんの方で、清子ばあちゃんは無表情のままどこか一点を見つめている。

突然、部屋を出ていく清子ばあちゃん。後を追いかけようかと思ったけれど、刺されるのも嫌だし、そのまま家の外に出て行ってしまうばあちゃんの背を黙って見送ることしかできずにいた。
一時間程して、インターホンが鳴る。他人の家で勝手に来客対応するのも気が引けたけれど、深夜2時を過ぎているし、普通の客が来ることもないだろうと一応玄関ドアの覗き穴を覗くと、警官が立っていた。

「〇〇清子さんのお宅でしょうか。清子さんは今警察で保護しています」
と話し、「先程交番に来て『この包丁で孫を刺した』と言われていまして。血も付いていないし、念のため確認しますねと住所を聞きまして伺いました」という経緯を説明してくれる。

祖母は認知症の診断もなければ、その当時はまだ60代で、自分のことは全て自分で出来ていたし、むしろかなりしっかりしていた。
交番に保護されていた祖母を迎えに行くと、幾分冷静にはなっていたようで、黙って僕の後ろを付いてきていた。

その件があってから、千代ばあちゃんは二度とその家には泊まりに行くことはなく、何となく疎遠になっていった。
清子ばあちゃんがそれを望み、その為に一芝居打ったのではとも勘ぐったけれど、本当に仲が良かったし、友人のいない清子ばあちゃんにとって千代ばあちゃんは唯一の心を許せる人間だったので、疎遠を望んでいたとは考え難い。
数年前に二人とも亡くなってしまったので確かめようはないけれど、今思い出しても不思議な体験だった。

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