国語の教師の左肩には
投稿者:YoyoYoyoY (52)
中学2年生の頃の話です。
私は3時間目の国語の授業を、ぼんやりと聞いていました。
春先の開け放たれた教室の窓からは、優しい風が通り過ぎて行きます。
40代前半の国語の先生は、眼鏡をかけたインテリ風の、控えめで大人しい人でした。
黒板に板書する音が、カツカツと響いています。
教科書をめくりながら黒板に目を向けると、先生の左肩に白いシャボン玉のようなものが見えました。
何だろう?と目を凝らすと、それはゆっくりと渦を巻き、何かを形成し始めました。
目にゴミでも入ったのかなと、擦りながらもう一度よく見るとシャボン玉は赤ん坊のような姿になりました。
いえ、正確に言うと妊婦さんのエコー写真などで見る胎児の姿です。
うわ!っと声を出しそうになりましたが、絶対に他の人には見えていないはず、そこは平静を装います。
ああ、水子霊ってやつかなと思いました。
それにしても、何で男の先生にそんなものが憑いているのでしょうか。
失礼だとは思いましたが、ちょっと気になったので数人の友達にそれとなく聞いてみました。
すると、先生が担任をしているクラスの生徒が教えてくれました。
「先生とこの奥さんがね、1年前に流産したんだって。でもね、奥さんより先生のほうがショックを受けたらしくて、一時期相当落ち込んでたみたいよ」
なるほど、母親よりも父親である先生の周りにいるのはそういう事情だったのかと、少し気の毒に思いました。
そらからは、あまり先生の左肩を意識しないように努めました。
今日も先生の板書の音が、響き渡ります。
いつもの春風が、教室を一回りして通り過ぎていきました。
ご冥福をお祈りします。