見えない子供

この話は私がまだ中学生だった時のお話です。
当時、父親の仕事の都合で、当時住んでいた所から約200キロも離れた田舎街へ引っ越しすることになりました。
転校する事になった私は、「友達できるかな…」と不安になりながらも、住み慣れた街を離れ憂鬱な気分でその街へと行きました。転校する前に通っていた中学校は比較的新しく、快適に過ごす事のできる場所でしたが、転校先の学校はその街でもひときわ古く、木造校舎のボロボロな学校でした。

初めてその学校に登校した日の事です。
「あれ？あんなところに小さい子供がいる」
私は、学校に入る手前で小さな女の子を見ました。近所の子かな？と思い、なんだか違和感を持ちながらも登校しました。

学校に通うようになり1週間ぐらい経ったときのことです。
音楽の授業のためピアノのある音楽室に移動し、クラス全員で合唱の授業を受けていました。そこでソプラノパートの生徒だけピアノの前で合唱する場面があり、集合していたときのこと。
ふと、教室のドアの前に目をやると、あの日の女の子の姿がありました。

「あれ…？あの子…この前いた女の子…」
なんでこんな所にいるのかと思うより先に、あの日の違和感の正体がわかりました。
おかっぱ頭、花柄のもんぺのようなズボン、上は白いセーターのような服。
まるで、「火垂るの墓」に出てくるようなせつこちゃんみたな格好でした。
「あ、この子私にしか見えてない子だ…」
そう咄嗟に思い、私はその子が音楽室へ入ってくるのをじっと見ていました。
ピアノの前に来てじっと合唱を見ているかと思ったら、その子はニコっと笑って消えていきました。
きっと音楽と歌声が素敵だったので満足したのでしょう。

それ以来、その女の子の姿をみることはありませんでした。