魂の行き場所
投稿者:ねこじろう (147)
「すまんなあ弘志、
こんなことにお前を付き合わせて」
篠原は相変わらず天井を向いたまま呟いている。
その横顔は
昔とは別人のように痩せ細り、
げっそり頬がこけている。
肌は紫色に変色しており、
無造作に生えた無精髭には白いものがちらほら混じっていた。
隣で寝ている俺は少し顔を篠原の方に傾け、
「そんなこと、気にするなって」と声をかけた。
安アパートのトタン屋根を、ボトボトと雨粒が跳ね返る音がせわしなく聞こえてくる。
どうやら雨が降りだしてきたようだ。
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大学時代の親友だった篠原から突然の電話が入ったのは三日前のこと。
市内の総合病院の病棟の一室に駆けつけたとき、ベッドで横になっている彼の姿には学生の頃の面影は全く無かった。
末期の癌ということだった。
医師の言うには余命はせいぜい後一週間ほど。
幼いときに事故で両親を失い兄弟もいない独身の彼には、いわゆる身内という存在がなく、そういうことで俺に電話をしてきたようだ
最後は自分の部屋の畳の上で迎えたいという希望を叶えるべく、俺は篠原を車に乗せて彼の住むアパートの一室に向かった。
六畳ほどの殺風景な畳部屋に布団を敷き、骨と皮だけになり恐ろしく小さくなった篠原をそっと横たえる。
「なあ、弘志、お前には本当に世話になってしまったな。
この際だからお前にお願いがあるんだが」
床の中から篠原が黄色く濁った目で俺に呟く。
「何だ?俺に出来ることだったら何でも言ってくれ」
俺はそう言って枕元に正座した。
「多分俺はあと数日でこの世から消え失せるだろう。
だからお前、その時が来るまで俺の横に居てくれないか」
「わかった」
一ヶ月くらい前に会社を止め失業中だった俺は躊躇せず承諾した。
俺は篠原の横に並べて布団を敷き横になった。
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涙してしまいました。
友達の分も生きて下さい。