開かずの踏切の向こうは
投稿者:ねこじろう (147)
カンカンカンカン、、、
小気味良い警報器の音が、5月の晴天の空に次々吸い込まれていく。
左右にテンポよく往復する赤いランプを見ながら、織田は軽いため息をついた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは誰もが気だるい月曜日の朝のこと。
街の人から【開かずの踏切】と呼ばれている遮断機手前にはサラリーマン、学生、主婦、老人、、、
様々な人たちが何をするわけでもなく、ただ険しい顔で立ち尽くしている。
一番先頭に立つ織田が、もどかしげに腕時計に目をやると独り言を呟く。
─やば、8時50分だ。
今日は9時から社長の訓示だったな。
遅刻なんかしたら次のボーナスの査定に響くかな?
それにしてもまったくこの踏切ときたら、いったいいつになったら開くんだ?
だいたいなんで役所は、こんな状態を放置してるんだ?
彼の勤める会社は、踏切を越えて商店街を直進して5分のところにある。そのことが、ますます彼の気持ちをイラつかせていた。
織田は今年で三十路に突入する独身サラリーマンだ。
大学卒業後7年勤めた車関連の会社を去年辞め、今春から以前から憧れていたIT関連の会社に再就職を果たした。
なにぶん働きだしてまだ3ヶ月しか経ってない新人だから、彼としては上司から目をつけられることだけは避けたかった。
すると、
「今朝はいつになく長いですねえ」
と、間延びした声がした。
隣に立つ皺だらけの老婆が織田を見上げ、ニンマリと微笑んでいる。
その笑みを目の当たりにしたことでイラつきが限界まで到達した彼は何故か突然後ろを向き、人の群れをかき分けかき分け脱出すると、線路沿いの道を東に走りだした。
─このまま待ち続けて遅刻するくらいなら、迂回してもいいから会社に行ってやる!
走りながら彼は高架下の道がないか探す。
すると前方左側に、小さなトンネルの入口らしきものがあるのに気付いた。
よっしゃあと心の中でガッツポーズをとると織田は、そのまま入口から入っていく。
車1台が通れるか?というほどの幅と低い天井をした石造りの薄暗い空間。
ひんやりしている。
出口までは、わずか1・5メートルほどだった。
織田はあっという間に出口まで到達すると、外に出る。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。