不思議な流木

私は魚釣りが好きで休みになると必ず近所の砂浜へヒラメを狙いに行っていました。
この日は台風後と言うこともありゴミが沢山打ち上げられていました。
ペットボトルや流木が散乱して歩きにくく足下に注意しながら釣りを楽しんでいました。
しかし、全く魚の気配が無く日が昇って終了の時刻を迎えたのです。
流木を拾ってネットで販売してお小遣い稼ぎをしている人の記事を読んだばかりだったので私も売れそうな流木を探すことにしました。
1時間ほど歩き回ったのですが形の良い流木が見つかりません。
大きすぎて持ち帰れない物や虫に食われて朽ち果てた様なものばかりでうんざりしてきました。
諦めて帰ろうとしたときです。
目の前に形の良い流木が砂に埋まっていたのです。
掘り起こすとちょうど1.5Ｌのペットボトルサイズで持ち帰れる大きさでした。
台風で流れて来た流木とは思えない美しさをしています。

表面は滑らかで人の腕のように湾曲していました。
まるでスレンダーな女性の腕を切り落としたような形をしています。
妙に心を惹かれた私は迷わず持ち帰りました。

自宅に帰り砂を洗い流して乾かすために駐車場に置いておきました。
2時間ほど経って見に行ったのですが全く乾いていません。
表面を触ると夏だというのにひんやりしており思わず手を引っ込めてしまいました。
水分が中まで浸透しているのだろうと思い夜まで置いておいたのですが全く乾く気配がありません。
9月というのにこの猛暑とカンカン照りで乾かないこと自体が理解出来ませんでした。
仕方なく翌日まで放置して寝ることにしたのです。
釣りで早起きしたせいで睡魔に襲われ9時にはぐっすり布団で寝てしまいました。
すると外でカタカタと音がしたので目が覚めてしましました。

気になり外を見たのですが特に異変はありません。
まるで木の棒で地面を突くような音だけが響いています。
耳を澄ますと駐車場の方から聞こえます。
怖くなり玄関を少しだけ開けて覗いてみるとあの流木が一人で動いていたのです。
まるで肘を曲げて匍匐前進するように駐車場を行ったり来たりしています。
怖くなってどうして良いのか判りません。
玄関の鍵を閉めて布団に潜り込むといつの間にか音が消えていました。
どうやらそのまま眠ってしまったようで起きると窓から朝日が降り注いでいます。
外に出ると流木は元の位置にありました。
疲れて変な夢を見たのだろうと支度をして車に乗り込みました。
ふと、サイドミラーを見ると夜中に流木が動いていた場所に水で線を描いたような染みが出来ていたのです。
慌てて車を降りてチェックした時には跡形も無くなっていました。