軋む音
投稿者:ぴ (414)
小さい頃に両親が離婚して、物心つく頃には私の親は母一人でした。
私は父と一度も会ったことはありませんし、顔すら分かりません。
ただ私は不幸ではありませんでした。
母はとても苦労したと思いますが、私は苦労なんてしなかったです。
母はそれくらい愛情いっぱいに育ててくれたし、父がいないことで孤独を感じたり、愛情が足りないなんて思ったことはなかったです。
すごく明るくて元気な母だったので、父の分も2倍くらい私を構い倒してくれて、私は特に反抗期もなく、すくすく育ったのでした。
しかし、私と母に転機がありました。
母が仕事場で知り合った同年代の男性にプロポーズされて、再婚することになりました。
私は父が欲しかったわけでもないのですが、母が一人だと大変かもしれないと思ったのと、単純に兄弟が欲しかったのもあり、母の再婚には賛成でした。
母が苦労していることは痛いほど分かっていたので、再婚をするかもしれないと相談されたときもすぐに受け入れました。
何度か会った父はすごく優しそうで、私と母も大事にしてくれると信じきっていました。
新しい家を購入することも検討したらしいですが、母それを遠慮して父がこれまで住んでいた一軒家に引っ越すことになりました。
新築ではないですが、とても広くて設備が整っており、これまで暮らしていたアパートとは天と地ほど違って見えました。
それからしばらくはとても楽しく暮らしていたと思います。
雲行きが怪しくなってきたのは母とその男性が暮らして半年くらい経ってからのことでした。
夜眠るときになると、なんだか上の階から「ずるずる」という何かを引きずる音や「きしっきし」と何かがきしむような音が聞こえることがありました。
たまに聞こえたそれは私の耳にも入っていました。
だけど、私は些細な音を特に気にするような繊細さはなく、母や父が立てた物音だろうと思って、それが何の音なのかと探ることはなかったです。
新築でもないし、多少の物音はあるものだと思って気にしなかったのです。
ただ家の物音は母がすごく気にしているように見えました。
私によく「夜寝るときに変な音がしない?」と話していたからです。
こうしている間に、母があからさまにおかしくなりました。
いつも明るかった母がだんだん塞ぎ込んで暗くなっていき、顔色も悪くなっていったのです。
何度か心配になって母に「大丈夫?」と聞いてみたけど、母が大丈夫の一点張り。
その頃、高校受験を控えていた私に心配かけまいとしたのだと思います。
母はどんどんやせ細りげっそりしたかと思うと、ある日突然倒れて、救急搬送されました。
母は栄養失調と心の病と診断されて、しばらく入院することになりました。
母が入院することになり、あまりに心配になって父に相談したことがあります。
私には気づかないことでも、父だったら母の異変に何か気づいたかもしれないと思いました。
だけど父は母が倒れたというのに、ろくに母の見舞いも行かずに、仕事を優先させていました。
ここ最近読んだなかで最もゾクゾクした作品。不気味な音の正体を理解したとき、ショックだった!