恐ろしい絵

高校時代、同じクラスの友人である友恵（仮名）の家に遊びに初めて遊びに行った時のこと。
玄関を入ってすぐ真正面のところにある壁に、とある絵が飾っていました。
その絵には、友恵らしき女の子が真ん中に立っていて、その両隣には40代くらいの男性と女性が立っています。
友恵に「この絵に描かれてるのって、友恵ちゃんと、友恵ちゃんのお父さんとお母さん？」と聞くと、どうやらそのようです。
写実的な絵で、友恵が言うにはお父さんの知り合いの画家に描いてもらったとのことでした。

そのときは、「写真みたいにリアルな絵だなぁ」とか、「家族で絵を描いてもらうなんて仲が良い家族なんだな」としか思っていなかったのです。
しかし、その1ヶ月後にまた友恵の家へ遊びに行った時、絵の様子が以前と変わっていることに気づきました。
なんと、友恵のお父さんの後ろに、新たに女性が描き足されていたのです。
その女性は色白で薄幸そうな顔をしている、髪の長い女性でした。
友恵のお父さんの後ろにひっそりと寄り添うように描かれていて、何だか分からないのですが、恐ろしくて長く見ていられなかったのを覚えています。
この女性のことは誰にも言ってはいけない気がして、友恵にも誰にも「絵に謎の女性が描き足されている」ということは言えませんでした。

それから2ヶ月後、友恵の家に遊びに行くと、あの絵にはまた1人描き足されていました。
このときに描き足されていたのは、赤ちゃんです。
友恵のお父さんの後ろに立っている髪の長い女性の腕の中に、赤ちゃんがいたのです。
不思議で不気味な絵のことは、この日も誰にも言えませんでした。

そのあとも何度か友恵の家に遊びに行ったのですが、家に行くたびに絵の赤ちゃんが実際の人間のように成長していたり、絵の中の友恵家族や女性が老けていったりと、絵の様子が変化していました。
見る度に友恵にこの絵のことを言った方がいいのかと悩んでいたのですが、頭がおかしいと思われるのが怖くて言えないまま、月日が流れていったのです。
友恵とは高校を卒業してから半年くらいは連絡を取り合っていたのですが、お互い忙しくなり、自然と音信不通になってしまいました。
だから、大学を卒業して数年経ってから久しぶりに友恵から連絡が来たときはとても驚きました。
久しぶりに来たメールには、「相談したいことがある」と、書いてあったのです。

数日後、待ち合わせ場所のカフェへ行くと、暗い顔をした友恵がいました。
どうしたのか聞くと、「あの絵、覚えてる？私の家に飾ってあった、私とお父さんとお母さんが描かれた絵なんだけど」と言いました。

私「覚えてるけど…、あの絵がどうしたの？」
友恵「あのね、あの絵、破いても燃やしてもゴミ捨て場に捨てても、必ず綺麗な状態で戻ってくるの」
どうやら友恵が言うには、あの絵を修復不可能な状態にして処分しようとしても、いつの間にか定位置の壁にかかっているんだそうです。

そもそも、どうしてあの家族写真のような絵を処分するに至ったのか、その理由は友恵のお父さんにありました。
どうやら友恵のお父さんが不倫していて、しかも不倫相手の女性との間に子供がいることが発覚した為、友恵のお母さんが精神的に病んでしまったそうです。
そして、あの家族の姿が描かれた絵を、友恵のお母さんは視界に入れるのも嫌になって処分しようとしたのでした。
しかし、どのように処分しても必ずあの絵が戻ってくるので、友恵も友恵のお母さんもすっかり参ってしまったようです。

友恵のお父さんとお母さんは離婚はせず、あの家に暮らしているということでしたが、友恵はあの絵を気味悪がって一人暮らしを始めたのだそうです。
友恵「あの絵のこと、誰にも言えなくて…。でも、あなたなら信じてくれると思ったの。あの絵、どうやって処分したらいいんだろう…」
私「あの絵を描いた人に預かってもらうのはどう？家族の事情を話せばわかってくれるんじゃないかな？」
友恵「うーん、そうしようかと思ったんだけど、その人、もう亡くなってるんだよね」
明確な解決方法は見つかりませんでしたが、ずっと抱えていた悩みを口に出せたことで友恵はすっきりしたようです。
最後に友恵は「貸倉庫にでも預けることにするよ」と言って、帰っていきました。