電車に乗った時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
その日、僕は朝から微熱があり、仕事中にとうとう熱が上がって早退することになった。
少しフラフラしながらもいつも通り電車に乗り、乗換駅で単線のローカル線に乗った時の事だ。
2両しかないそのローカル線の後ろの方の車両に乗ると、小学3~4年生くらいの二人の男の子が車両の中を走り回っていた。
乗客は2両合わせても10数人といったところだったが、誰もその子供たちを気にも留めない様子だった。
昼の3時過ぎだと電車に学校帰りの子供が乗っていてもおかしくないし、客はそれを気にしていない。
不思議な事に、子供たちは走り回っているものの、無言ではしゃぎ声すら出していなかった。
さすがに電車で大声を出すと迷惑だと思っているらしい。
迷惑だと思うのなら電車の中で走り回るなよとは思っていたが、それを注意する気力さえ無かった。
よく見ると、子供たちは鬼ごっこのような遊びをしている。
「鬼」が何か色を決め、「その色の何か」に「人」がタッチすると「人」は「鬼」から逃げられる。
もし「人」が「その色の何か」にタッチできなければ、「鬼」が「人」の体にタッチすると攻守交替というルールのようだ。
電車に揺られているうちに、僕はだんだんと気分が悪くなっていった。
子供たちは鬼ごっこを続けているが、無言だから次が何色かというのが全く分からない。
しかし、次々に赤だの青だの見つけると、結局ほとんどの乗客の持ち物や服にタッチしていた。
電車は、僕が降りるはずのひとつ前の駅に差し掛かり、その駅でゆっくりと止まった。
顔を上げて駅名を確認し、子供たちの様子を見ようとすると、少し離れた所で「人」の子供と目が合った。
その時に軽い吐き気がしたので、僕は我慢できずに一旦その駅で降りる事にした。
ドアが閉まるギリギリで電車を降り、振り返るとドアの窓越しに「人」の子供が残念そうな顔をしていたのが見えた。
間もなく電車は走り出し、僕はトイレへと向かった。
10分ほどトイレに座ると気分も落ち着いて来て、結局嘔吐などはしなくて済んだ。
トイレから出ると、ホームのベンチに座って次の電車を待った。
この時間帯は20分ほどの間隔で電車があるはずだが、15分以上待っても電車は来なかった。
駅員によると、何かトラブルがあって、次に来るはずの電車がひとつ前の駅で止まっているらしい。
復旧がいつになるかわからないと言うので、その駅からタクシーで家に帰る事にした。
家に帰ってテレビでローカルニュースを見ると、僕が降りた電車が酷い脱線事故を起こし、死傷者か出たそうだ。
もし、そのまま電車に乗っていたらと思うと、生まれて初めてゾッとするという体験だった。
そのままテレビで続報を見ていたが、死者と怪我人は合わせて15人いたという。
しかし、不思議な事に、その中に小学生は一人もいなかったそうだ。
ニュースを見ながら、僕はある事を思い出した。
結局、「人」が探していた色が何色なのか、最後までわからなかったのだ。
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