線香の匂い

先週の水曜日、地元の海で釣りをしていた時の話です。

前提として、自分の地元は東日本大震災で被災し津波で大勢の犠牲が出た地域です。

釣りをしていた一帯は、製紙工場やベニヤ板工場、水産関係の工場や製氷工場等、規模の大きい工場が建ち並んでいます。

それらの工場の光にプランクトンや小魚が集まり、それを食べに大型魚も集まるわけです。

普段はけっこうな釣り人がいますが、その日は急に冷え込み、しかも平日だったせいか自分一人しかいませんでした。

18時ごろから釣りを開始し、19時を回るとあたりはすっかり暗くなっていました。

誰もいない貸し切り状態だったので普段よりよく釣れました。

いつもは20時で切り上げるところ、せっかくの貸し切りなので21時頃まで粘っていたんです。

そしてちょっと移動しようと200m程歩きました。

すると、どこからともなく線香の匂いがするのです。

周囲は、上記にある通り木を扱う工場があるため、ずっと木の匂いがしています。

それをかき消すように、線香に甘ったるい花の香りを混ぜたような、そんな匂いがします。

ちょうど先月、某SNSにて「線香の匂いがしたら近くにいる」と聞いていた自分は一目散に逃げました。

元いた場所に戻ると、いつも通りの木の匂い。

「よかった、あそこにいたんだ」と逃げ果せたことに安堵していると、目の前で魚が跳ね始めました。

そこに投げれば釣れる・・・！と、すぐに帰ればよかったのに、釣り人魂に火がついてしまったのです。

そこから15分ほど、入れ食い状態で釣りを楽しんでいました。

遠くから車のクラクションの音が聞こえ、少しびっくりして正気に戻りました。

こんなことしている場合ではない、帰らないと。

あの線香の匂いは移動してからは一度も感じません。