宛先のない手紙
投稿者:ぴ (414)
不思議な手紙を受け取ったことがあります。
その手紙の送り主は「細木幸子(仮)」という女性でした。
私と幸子ちゃんは小学校が一緒という共通点はありますが、それほど仲が良い関係ではありませんでした。
幸子ちゃんは学校では浮いていて、よく人にからかわれるような子でした。
体がペラペラに細くて力が弱く、肌がいつも青白くて不健康そうだったので、男子からは「ホネ子」とからかわれることもしょっちゅうありました。
中身もちょっと変わった子で、人の悪口を平気で言い、その付き合いづらい性格から友達になろうとする子はほとんどいなかったです。
幸子ちゃんは学校でもかなり浮いていて、いつも一人でぽつんといることが多かったです。
だからもしかしたら誰かにいじめられたりしたこともあったかもしれません。
少なくとも私はいじめはしていないので分かりませんが、いじめられてもおかしくないくらい、クラスでは浮いた存在でした。
私にとって幸子ちゃんはただの一クラスメイトという認識でした。
そんな幸子ちゃんから手紙が届いたのは、社会人として働き出して半年くらいの頃だったんじゃないかと思います。
やっと仕事に順応してきて、なんとか頑張っているときでした。
ただ仕事はなんとかなっているけど、人間関係がいまひとつうまくいっていなくて、ちょっと落ち込んでいるときでした。
偶然にもまさに小学校時代の幸子ちゃんみたいに、私は職場で少し浮いた存在になっていたのです。
そんな背景もあったせいか、私はこの手紙を読んだときに、送り主の細木幸子という名前だけで、すぐに小学校の頃のクラスメイトが思い浮かびました。
小学校以来一度も会ったことがなかったし、そこまで仲良くもなかった相手なので、当時の孤立した環境がなければすぐに思い出せなかったかもしれません。
しかし、そのときの自分の心境もあってか、名前だけで思った以上にすんなり幸子ちゃんを思い出せました。
そして手紙の中身に書いてある心境が私にぴったり当てはまったのです。
幸子ちゃんの手紙には、小学校時代の寂しくて孤独な日々に対する不満が綴ってありました。
特に私個人を責めるような手紙ではありませんでした。ただクラスメイト全体に書いた、不満や恨み言みたいな手紙です。
そこには私の友達にいじめられたというような内容も書いてあり、私は幸子ちゃんの言い分も最もだと他人事ではないように感じてしまいました。
今考えると、その手紙はとても不思議で「宛名のない手紙」でした。
送り主の住所や名前はしっかり書いてあるのに、宛先の住所や名前の欄はまったくの空欄なのです。
よく考えたら切手も宛先もない手紙がポストの入っているのはおかしいです。
そんな手紙を例え郵便局や郵便ポストに出したとしても、無事に届くわけがないからです。
だったら相手は自分の足で我が家のポストに手紙を入れたということになります。
住所を突き止められているというのはとても恐怖感があると思うのですが、当時の私はどうしてかそのことについて何の疑問も持たず、まったくおかしいと思わなかったのです。
私はすぐに幸子ちゃんにお返事を書きました。
小学校の頃の自分を省みて、幸子ちゃんに謝るような内容の手紙だったように思います。
そしてなぜか自分の今の状況を素直に吐露して、同じ状況になって初めて幸子ちゃんの辛かった気持ちが分かったと手紙に綴ったのです。
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