アリス
投稿者:LAMY (11)
「私、不思議の国のアリスだったんです」
サークル主催の怪談会で、愛ちゃんは自分の番が回ってくるなり開口一番そう言った。
この愛ちゃんという女の子は少し電波が入っている感じの不思議ちゃんで、顔は可愛いのだが要らない悪意や揶揄を買ってしまうタイプだった。
けれど当の本人はそんなのどこ吹く風といった様子でいつもにこにこ笑っている。
可愛いし人懐っこいので男子からはそこそこ人気があったが、一部の女子からは煙たがられている……そんな愛ちゃんがいかにも電波っぽい始まりで話し出したものだから、一人の先輩がすぐさま茶々を入れた。
「それってあれ? 物が凄い大きく見えたりするやつ?」
「ああ、不思議の国のアリス症候群ってあるもんね確か。でも、怪談会で病気の話をされてもねえ」
「そういう怖さは求めてないからな~」
話の内容を勝手に見透かして茶化すという無粋な言動に、白けた空気が一瞬流れた。
しかしその空気が長続きしなかったのは、愛ちゃんが「あはは。そういうお話じゃないですよ」と殊更意に介した風でもなく話を続けたからだ。
「他の人が見えないところとか、行けないところに、入れたんです」
「……どういうこと?」
「不思議の国のアリスって、主人公がうさぎを追いかけて違う世界に行っちゃうじゃないですか。ほんとあんな感じですよ。他の人には見えない不思議な場所が私には見えたし、そこに入ることもできたんです」
今まで語られてきたどの怪談とも違う語り口に、さっきまで愛ちゃんのことを茶化していた連中も口を噤んでいた。
そもそも怪談会なんて物好きな集まりに参加するような連中だ。愛ちゃんに対する悪感情よりも、彼女の話への興味の方が上回ったのだろう。
「最初は幼稚園の頃だったなあ。
みんなで使える遊び場みたいな部屋があったんですけど、そこの隅っこに階段があるのを見つけたんですよ。そんなとこに階段なんてあるはずないんですけどね、ほんとは。
でもその頃は子供でしたから、興味本位で階段を下りてみたんです」
「まあ、幼稚園児なら下りちゃうよな……」
「そしたら下りた先にも普通に部屋があったんです。ボールとかお手玉とかが置いてあって、私以外にも何人か遊んでる子がいて。今思えば、みんな知らない子でしたけど」
活発な子供だった愛ちゃんは、そのままそこでしばらく遊んで、元居た部屋に戻ったという。
次の日もそのまた次の日もそこには階段があって、彼女は毎日のようにそれを下りては件の部屋で遊んでいた。
だが、そんな日々はある時突然終わりを迎えた。
「ある日、仲の良かった子をそこに誘ったんです。
だけどその子には、階段なんてどこにも見えないらしくて。
そこで初めて、あの階段が自分にしか見えてなかったんだと気付いたんですけど――ふっと視線を向けたら、私にも階段が見えなくなってたんですよね。ついさっきまでは見えてたのに。結局、例の階段とも部屋ともそれっきりで」
「……、……」
「でも私、それからもいろんな“他の人には見えない場所”に行ってたなあ」
家の隣は草がぼうぼうに生い茂った空き地のはずなのに、時々そこに大きな家が見えた。
家から出てきたお姉さんに誘われては中に入り、その度見たこともないようなおいしいお菓子をご馳走になった。
後日母親にそのことを話したところ、空き家に入ってはいけないと叱られたが、お姉さんの話自体は一切信じてもらえなかった。
読ませるねぇ〜
子供の頃似た経験してるよ。よくある夢との混同かと思ってる。
違う次元行って帰れないのは、まどマギの円さんみたいだなー
明治時代に出版された日本初の「不思議の国のアリス」の邦題は、「愛ちゃんの夢物語」
名前までムリヤリ訳しちゃったそうです。
面白かった
愛ちゃんの夢物語www
夢オチにされとるwww
めっちゃ読みやすくて話に引き込まれる感じがして面白いです!
読み終わってゾワッとしました!
面白かったです!
黄泉戸喫 (よもつへぐい)「あの世のものを食べると、この世に戻れなくなる」というもの。 例え生きたままあの世に行けても、黄泉のものを食べればそのまま黄泉の国の住人にされます。 こと、日本においては、古事記に登場する 伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の話が有名である。
何故か2ページ目までしか読んでなかった
今日、気が付いて最後まで読んだけど、本能で帰れなくなると警告していた2ページ目で終わらせる方がぞくぞくして完成度が高かった気がする
蛇囚人の話を思い出した
今は文字化けを直すサイトがありますよ。
面白いけど最後のメール警察に突き返されたってのだけ気になっちまった…
画像もいい味出してるw
めっちゃいい
向うに行った場合こちらの世界の時間がほぼ止まっているのに
翌々日にメールが届くの?
いいなぁこの淡々と流れで不思議で恐ろしい結末。
世にも奇妙な物語でやってほしい。
子供の頃は働いてた本能が無くなって現実の世界でも翌々日になっちゃうくらい時間が経っちゃったのかね。
それか呼び込まれて美味しいもの、とかじゃなくてゆっくり休めるベッドとかで思わず寝過ぎて出れなくなった。とか
なかなか怖い
↑文字化け直すサイトは全ての文字化けに対応できる訳ではないよ
その後、愛ちゃんがどうなったのか想像するとまた怖いね
愛ちゃんやっちまったなぁ!
きれいに纏まってていい怪談
そういう部屋で思い出の中の好きな人と幸せに閉じこもってたいな。
帰られへんって・・・・
ためはち
逆に裏の山で遊んでたら1.2時間くらいしか経ってないはずのに家に帰ったら4日くらい経ってたことあったなぁ
誘拐か遭難かみたいなちょっとした大騒ぎだった
電波は出られるんだな
不思議な空間はないけど小学校の頃は登下校で使えてた道が工事とかがあったわけじゃないのにいつの間にかなくなってたことはあったな。親に聞いたらそんな道元知らないし地図にも乗ってなかったんだよね 。
面白く拝見しました。
ところで、ご存知の上でかもしれませんが、向こうに行ってから翌々日にメールが届いたのではありませんね。
「彼女は怪談会の次の日、通学のために家を出たところから行方がわからなくなっているというのだ。」
「メールの受信時刻を見ると、怪談会の翌々日の午前中だ。」
大学生なら通学時間が遅い日もあります。
行方不明後にメール着信という前後関係を明らかにする設定の中では、時間差を縮めた流れにはなっていますね。