鬼灯に近付くな
投稿者:繭 (42)
短編
2022/03/18
23:02
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私の友人のK子が高校生の頃に体験した出来事です。
当時K子は重大な悩み事を抱えていました。
悩みの性質上親や担任にも相談できず途方に隠れていたある日の下校中、K子は気分転換を兼ね、普段は使わない裏道に飛び込みました。
しばらく行くと見えてきた更地には一面鬼灯がなっていました。
ぼんぼりによく似た橙の実を目の当たりにしたK子は、前にしゃがんで観察を始めます。
ところが……K子が手を伸ばした瞬間、悲劇が起きました。彼女が軽く包むなり、繊細な葉脈が走った外皮がくしゃりと潰れてしまったのです。
「おぎゃあおぎゃあ」
直後に赤子の泣き声が響き渡り、度肝を抜かれて立ち上がりました。しかし周囲には誰もいません。ただ赤子の泣き声だけが殷々と響き続けています。まるで声だけの亡霊でした。
泣き声に呼応するように残りの鬼灯も揺れ出し、K子はお腹を抱えて逃げ帰ったそうです。
現在、一児の母になったK子は回想します。
「後で知ったの。そこ、大昔に遊郭が建ってた場所なんだって。鬼灯は遊女の堕胎に使われたの。この子を産もうかどうか悩んでたの、見抜かれちゃったのかな」
幸いK子の娘さんは元気に育っています。
あの鬼灯は遊女たちが泣く泣く堕ろした赤子の生まれ変わりだったのかもしれません。
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