晴れ舞台の学芸会
投稿者:繭 (42)
小学4年生の頃の話です。うちのクラスは学芸会でオリジナルの劇をやることになりました。満場一致で主役に決まったのはクラス一の美少女、愛子ちゃんです。
「おめでとー愛子ちゃん、頑張ってね」
「うん……」
愛子ちゃんの返事は歯切れ悪く、浮かない顔をしてます。
村人A、それも日頃からちょっかいをかけてくる意地悪な男子と夫婦役の私からすれば、羨ましくてたまらない立場なのに……変な愛子ちゃん、とその時は首を傾げました。
私たちのクラスは学芸会に向けて稽古に励みました。主役の愛子ちゃんは台詞量も多く覚えなきゃいけない事だらけで特に大変そうです。片やこちらは村人A、セリフは一言なので実に気楽でした。
ところが……愛子ちゃんは舞台に上がる事ができませんでした。学芸会の一週間前に事故であっさり亡くなってしまったのです。
主役不在ときて中止が検討されましたが、死んだ愛子ちゃんの為にも絶対成功したいと担任と一部の生徒が妙に盛り上がり、急遽代役が立てられました。クラスで二番目に可愛い子です。
当日、舞台袖で待機する私はドキドキしていました。愛子ちゃんの幽霊が代役にやきもちを焼き、劇を妨害するのを恐れたのです。愛子ちゃんはほんの少し執念深い所がありました。
私の心配をよそに何事もなく劇は進み、とうとう出番がやってきました。男子と示し合わせて舞台袖から駆け出した時、耳元で懐かしい声が呟きました。
「いいな」
愛子ちゃんの声でした。次の瞬間、顔面から転んで大恥をかきました。体育館に詰めかけた観客は爆笑しています。
後日、私と夫婦役の男子に愛子ちゃんが片想いしていた事を彼女のお母さんから聞かされました。
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