船型の箱と代償
投稿者:林 (4)
祖父の家はそれはそれは大金持ちで、町の名前に祖父の家の苗字がつけられていたほどだった。
また、大正生まれだった祖父には七人の兄弟(男五人、女二人)がおり、全員に一人ずつ執事がついていた。
しかし、なぜか長男を除く、兄弟六人には身体の右側に障害があった。
祖父は右足が不自由で、歩くことはできたが走ることはできなかった。他にも右目だけ失明していたり、右耳だけ聴こえないといった感じだ。
ほとんどの場合は言わなければわからない程度だったので、知らない人も多かったそうだ。
そんな祖父の家は貿易で財を成し、一族はみな船関係の仕事をしていた。
ある日、会社の創立を記念する宴にすべてのグループ会社のトップ全員で一泊二日の船旅をすることになったそうだ。
つまりは一族の男集全員で船に乗ったということ。
海の神様は女を嫌うとのことで妻や子どもは残され、さらに執事達には暇を出した。
普段は執事の目もあり、好き放題することができなかったが、その日は自由だった。
祖父とすぐ上の兄の二人は特に仲が良く、その日は二人で蔵の探検をすることにした。
その蔵は立ち入りを禁止されており、近づくだけで両親はおろか執事にすらも叱られたそうだ。
当然、扉には大きな錠がかかっており、その鍵の在り処も知らされてはいなかった。
けれど、少し高い位置にある小窓が壊れて開きかかっているのを祖父の兄が見つけたのだ。
祖父は足が悪かったので、お兄さんが登って窓を壊して開けた。それから、お兄さんが肩車をして祖父を持ち上げ、侵入した。
採光用の窓からわずかに光が入るだけで、蔵の中は薄暗い。
中にはたくさん物が入っていたが、遊べそうな物は見つからなかった。
ふと視線を上に向けると、中二階のようになっており(今で言うロフトのような感じ)、隅の方に梯子がかけられていた。
お兄さんに声をかけるとさっそく登って行き、安全が確認できたところで祖父も梯子を登った。
そこはかなり埃っぽかったが、窓が近かったため下よりも明るさはあった。
そして、そこにはたくさんの船の形をした木箱が並んでいた。
しかし、どの箱にもお札が貼られ、物々しい雰囲気がしたそうだ。
祖父は気味が悪くなって帰ろうとお兄さんに提案したが、お兄さんは箱を開けてみようと言い出した。
止める祖父のことは無視してお兄さんはお札を剥がし、蓋を持ち上げた。
大きな箱の中には和紙で作られた七つの人形が並んでいた。
人形は一つを除いて、すべてに錆びた針のような物が刺さっていた。右目、右耳、右手、右足……といった具合に。
それは祖父の兄弟の障害がある箇所と一致していたのだ。
たまたまだろうと思いながら、お兄さんはさらに別の箱を開けた。そこにはまた同じように数体の人形が入っていて、それにも針が刺さっていた。
さらに箱を開けようとしたところで、お兄さんが一番奥に四角い大きな箱があることに気付いた。
それには船型の箱とは比べ物にならないほど、大量のお札が貼られていた。しかし、どれも一度剥がされ、その上から再びお札が貼られている感じだったそうだ。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。