船型の箱と代償
投稿者:林 (4)
もっと明るい所で見ようと思い、二人は箱を窓の下に移動させることに。箱は重過ぎて持ち上げることができず、二人で箱を押して動かした。他の箱を避けながら進んだが、薄暗い中では周りがよく見えず、あちこちにぶつけてしまった。
すると、カリカリと音がした。何か引きずっているのかと思い、一度動かす手を止めた。
お兄さんに「変な音がする」と言ったが、右耳が不自由なお兄さんには聴こえなかったらしい。
気のせいだろうかと思い、再び押し始めるとまた音がした。それは箱の内側から、何かで引っ掻くような音だった。
今度はお兄さんにも聴こえたらしく、二人は顔を見合わせた。
中身を知る手がかりはないだろうかと、お兄さんが箱の周りを見始めたところ、うっかり箱を押してしまい中二階から下へと落としてしまった。
ガシャン!と木が割れる音と共に、ベシャっと水っぽい物が潰れるような音がした。
上から見下ろしたものの、暗くてよくわからない。
二人は慎重に梯子を降り、落としてしまった物のそばへ。木箱の破片と共に散らばっていたのは錆びた針の様な物が刺さった湿っている”何か”だった。
何なのかはわからなかったが、そのままにしておいては蔵に入ったことがバレてしまうため、片付けることにした。
下には空の木箱がいくつかあったので、適当な物を選び、それに入れることに。
しかし、無数の針が刺さった”何か”を直接触るのは憚られたので、木箱の破片ですくって入れた。
ツンと鼻をつく腐敗臭と生臭さに顔をしかめながら、なんとかすべてを入れ終えた。
しかし、この箱を持って梯子を登ることはとてもできそうになかったため、隅の方に寄せてそこに置いた。
それからお兄さんが再び中二階へ行き、開けた船型の箱を片付けると、二人は蔵をあとにした。
今日のことは決して誰にも言わないと約束して。
その日の夜のことだ。祖父達にはそれぞれ個室が与えられていたので、一人で眠っていた。
眠ってしばらくした頃、何かを引きずるような音と水が滴る音が聞こえ、祖父は目を覚した。
耳を済ませると、その音は廊下から聞こえてきた。
枕元の時計は二時を指している。使用人には暇を出しているのでいるはずがない。兄弟の誰かが厠にでも行こうとしているのかと考えたが、音のする方向がおかしかった。
その音は厠とは逆方向へと進んでおり、自分の部屋の方向に来ているのがわかった。
ザリザリ……ベシャっ!ザリザリ……ビシャっ!
人間が出す音ではない。祖父は昼間に蔵で見つけた物を思い出し、背筋が寒くなるのを感じた。
そして、すぐ上のお兄さんのことを思った。
右耳が聴こえないお兄さんはきっとこの音に気付いていないはずだと。
しかもお兄さんの部屋は”何か”が来ている方向から、自分部屋より手前にある。”何か”が箱を壊した腹いせに襲いに来ているのだとしたら、真っ先に狙われてしまう。
祖父は足が痛むときだけ使っていた杖と毎年兄弟全員に渡されるお守りを手に立ち上がった。
ドアの前で耳を澄ませると、薄気味悪い音はますます近付いて来ていた。
深呼吸をし、意を決して扉を開けようとした瞬間「ガチャン!バリン!」と大きな音が響き渡った。
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