何かに向かって怒鳴り続けるお婆さん

私が以前勤めていた訪問介護事業での話です。

１日に数回、１回１時間程度高齢者向けマンションでの訪問介護をします。

始めは先輩と一緒に訪問し、業務を覚えます。

あるお婆さんの部屋に訪問した時、「この馬鹿！」という怒声から訪問が始まりました。

怒っているお婆さんを無視して着々と掃除、洗濯を始める先輩に戸惑っていると「別にあなたのことじゃないから気にしないで。」と言われました。

１時間ずっと「この馬鹿。」「ろくでなし。」といった言葉を大声で叫ぶお婆さんに恐怖を感じて終わりました。

仲の良い先輩にこの話をしたところ、「ああ、あれね。上見た？」と訊かれ、見なかったと伝えると、遺影写真があったそうです。

先輩の話では遺影写真に向かって２４時間怒鳴り続けているとのこと。

訪問では地獄でした。

１時間ずっと大声での怒声を聞き続けるわけで、終われば耳鳴りもしていました。

ご家族と相談をし、遺影写真を撤去しましたが、それでもお婆さんは部屋の隅に向かって。

「このクズ。」「役立たず。」「金を返せ。」などと叫び続けます。

私は１年後の健康診断でストレス診断に引っかかり、心療内科へ通うようになりました。

聴覚過敏と診断され、上司と話し合いをして退職。

大声で、２４時間眠らずに断続的に何かに向かって怒り言葉を叫び続ける。

あのお婆さんの姿には妙なものがあり、見ている側が精神や身体を壊しそうになるぐらいの破壊力がありました。

退職後２年経ちますが、今でも叫び続けているのかなとふとあのお婆さんを思い出します。