木の上の生首
投稿者:with (43)
俺の実家は山に囲まれた田舎にあるんだが、中学生の頃変な体験をした。
緩やかな上り坂の途中に家があるんだけど、ちょうど道の真正面を見渡すと緑一色に染まった小山が見える。
今では眼鏡をかけている俺だが、当時は視力がよく、遠くの野鳥とかもくっきり見えるほどで、その時も何気なしに山を眺めていた。
自宅の玄関に差し掛かったとき少し違和感を覚えて再度山を見上げる。
なぞるように木々の一つ一つを目で追うと、その中の一本木の頂点に何か黒っぽい物体があるのがわかった。
烏か猿かな?なんて思った。
田舎を舐めてもらっちゃ困る。
野生の動物は昼夜関係なくこの人里に出てきて畑や柿など食料なら何でも食い荒らして帰っていく。
そのまま帰宅した俺は、自分の部屋に駆け込んで机の引き出しから双眼鏡を取り出した。
これさえあればあの木の先にある物体の正体が分かる。
そう思ってわくわくと弾むような笑顔で窓を開けて身を乗り出した。
双眼鏡越しに例の木を探し当てると、徐々に目線を上げて視覚の中に例の物体をとらえることができた。
「…ん?」
何というか、本当に黒い楕円形くらいのボール?
そういう印象を抱いたが、もっと情報を得ようと意味もなく目を細めた。
すると、黒い物体がモゾモゾと動いたと思うと、くるっと回った。
「うひゃあ……!」
我ながら間抜けな悲鳴が出た。
その黒い物体だと思っていたのは人の頭だった。
こちらに振り向いた顔は、達磨のように目を見開き口許をギュッと固く結んで、まるで怒っている表情に思えた。
俺は瞬時に窓を閉めてカーテンで遮断する。
それから一時間くらい意味のわからない状況に固まっていたと思う。
で、母ちゃんが買い物から帰ってきたらしく車の音が聞こえたので階段を駆け降りた。
「外、誰かおった?」
「いんや、誰もおらんよ?」
母ちゃんは眉をひそめるが買い物袋を俺に押し付ける。
俺は買い物袋をキッチンに運んだ後、部屋に戻ってもう一度例の木を探して双眼鏡で覗いてみた。
だが、既に黒い物体はどこにもいなかった。
別に俺に心霊現象が起きるわけもなく、見間違いだと無理矢理解釈したが、今でもあの怒りに満ちた顔は覚えている。
あれは何だったんだろう。
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