四つん這いの髪の長い女
投稿者:山椒魚 (6)
以前、私(28歳男)が4年半勤務していた、成人の入所支援施設での体験談です。
その施設は男女各20名ずつの利用者が入所しており、男子棟と女子棟がありました。
女子棟では以前から高齢の利用者さんが夜中に部屋の隅に向かって誰かに話しかけているということがあったり、テレビが勝手に点いたりと不可解なことが起きていると噂になっていましたが、私は怪奇現象や幽霊など全く信じていなかったので、高齢の方の独り言やテレビの接触不良なんていくらでもあるだろうと思っていました。
ある日の夜勤。
夜勤では男女1名の職員で利用者を見守らなければならないので、各棟の宿直室には施設の監視カメラのモニターや各利用者の部屋についている集音マイクの音を拾って夜間の安否確認が出来る装置がついており、私が勤務していた時には当時90歳の最高齢の利用者が入所されていたので、就寝後から朝までの間は常にその方の部屋の集音マイクの音を聴きながら数回の見回りで安否確認も行うという業務がありました。
その日も、いつものように深夜1時に見回りを行った後、宿直室で集音マイクを聴きながら日報を入力していました。
2時をまわり、日報もあと少しで入力し終えると思っていた時、施設の玄関の監視カメラに動きがありました。
見てみると内玄関の自動ドアが開いたり閉まったりしていました。施設の一番外の玄関扉には鍵が掛かっているので室内で何かに反応したようです。私はどうせ虫か何かだろうと思いながらその後も開いたり閉まったりする映像を視界に入れながら日報を打ち続けていました。
日報を書き終えた頃には自動ドアの開閉はおさまっていました。
いつも通り何事もない夜勤だと安心していたのですが、ふと集音器から声がしているのに気がつきました。90歳の利用者の部屋の集音器です。
何かを喋っているのですが声が小さ過ぎて聞き取れなかったので、聴こえるように音量を最大にしてスピーカーに耳をつけました。
「そんなことないです。」
まるで誰かと会話しているような、そのはっきりと聞こえた声は若い女性でした。
一気に鳥肌が押し寄せてそれ以上スピーカー越しに声を聞く勇気がなかったのですが、仕事中なので確認しないわけにはいきません。
懐中電灯を照らしながらゆっくりと部屋のドアを開け、部屋の中を見渡しましたが利用者はぐっすりと眠っていました。他には誰もいません、何も聞こえません。
静かに部屋のドアを閉めて宿直室に戻りました。
あの声はいったい何だったんだろうと思っていたのですが、気になると怖くなってしまうので『気のせいだったのかもしれない。疲れているのかも。』と自問自答しながら宿直室一番奥に向かい、自分のカバンから飲み物を取り出しました。
デスクの椅子に戻ろうと振り返ったとき、
宿直室入り口ドアの隅から髪の長い女の人が四つん這いで顔の3分の1くらい出してこちらを見ていました。
はっ!と驚いて目を一瞬背けてしまったのですが、次見た時にはその女性はいなくなっていました。
怖くなってしまいしばらく宿直室から出られなかったのですが、このまま一人抱えて朝までいるのも怖く、恐る恐る女子棟まで行ってその出来事を私よりもかなり先輩だった女性の夜勤職員に伝えました。
すると、
「私、その人に何回も手を引っ張られてるのよ」
と言っていました。
その話を聞いたことで更に怖くなってしまい、朝まで寒気が止まりませんでした。
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