あの世ですらない場所
投稿者:青鷺 (3)
「優、帰るぞ」
振り向けば父がいた。対岸を見直す。向こうにも父がいる、二人いる。
「なんで?どっちが本物?」
突然分裂した父にびっくりし声を張り上げれば、対岸の父が叫ぶ。
「来るのか?来ないのか?どうするのかお前が決めろ」
「だ、だって」
一体どちらが本物?対応を決めかねてあとじさった時、背後の父に肩を掴まれた。温かい手。同時に頭に血が巡りだし、対岸の父と此岸の父を見比べる。
「教えてお父さん、橋の向こうには何があるの?」
彼岸の父は優しく微笑み口を開く。
「 だ」
此岸の父は哀しげに首を横に振る。
「あっちには何もない」
対岸の父は急激に膨れ上がった油蝉の声にかき消された。即座に背後の父の手をとり踵を返す。背後でギシギシと吊り橋が軋み、一気に腐敗していく気配が伝わる。
地面を見詰めて歩く間、ぼとぼと蝉の抜け殻が降り注ぐ。どれもこれも真っ黒に腐っていた。
三柱目、二柱目の鳥居をくぐり山の入口に至ると同時に父が手を離す。
「ここからは一人で大丈夫だろ」
「お父さんは?」
小さな声で聞く俺の頭をひとなでし、父は山の奥へと消えて行った。
数分後、俺は捜索隊に保護された。
体感では2・3時間程度しか経ってなかったはずが、丸一日姿をくらましていたそうだ。
山に入っていたとありのままに述べても、そこは何度も捜したと言われて信じてもらえない。その上皆は口をそろえ、二柱目三柱目の鳥居の存在を否定する。あの山には入口の鳥居しかないというのだ。
どうにも納得できない俺は、山で体験した一部始終を祖父母に訴える。すると祖父母は顔を見合わせ、神妙に語り始めた。
「子供に聞かせる話じゃないから黙っていたが……あの山の奥には谷があってな、行き倒れた旅人や間引きした人間の骸を捨てていたんだ」
「そうだったんだ……じゃあ吊り橋のむこうはどうなってるの?」
「吊り橋?」
祖父が眉を吊り上げる。祖母が困惑する。
「谷の向こうは忌み地なの、入ったら戻ってこれない」
「わざわざ橋などかけるもんか」
「だって」
対岸に父を目撃したことを話せば、祖父と祖母はひどく青ざめた。
とても惹き込まれる話だった
書き方がお上手ですね
怖いけど、すこし悲しい
何もないのが向こう側の父親のセリフに現れてるのか
怖い
読ませるねぇ。
此岸と彼岸を区別してるから「俺」はどっちが偽物かわかっていたんだな。
でも此方はイジメがないよ母さんが待ってるよって甘言があったら行ってしまう危うさがあった。
難しい言葉を使うのが好きな作者さんなのね。
とても面白かった
最後は本当のお父さんだったのかな
どちらにせよ切なくて良い
面白かった!
恐くて物悲しい、とても美しい物語だと思った
まさかこの手の「怖い話」で『美しい』という思いを抱くとは思わなかった
なんにせよ素晴らしい作品に触れることができて感謝の念に堪えない
(作者はもしかしてプロのかたなのだろうか?)
beautiful.
大変な思いしているようだが、頑張ってほしい。好きなことを見つけて、そこに打ちこんでほしいね
お母さんの呼び方が「お袋」と「母」となっていますが、統一したほうが読みやすいかと思います。