あの世ですらない場所
投稿者:青鷺 (3)
長編
2021/09/11
23:15
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「谷向こうは人が立ち入れる世界じゃない。あの世ですらない。人ならざる有象無象が蠢く、この世の理が通じん場所だ」
祖父の呟きに応じ、祖母が涙ぐんで頷く。
「恭介なら息子をあの世に呼ぶはずない、優ちゃんが元気でいてくれることを願うはずよ」
ならばアレは誰だったんだ?
もしあの時父の姿をまねた何かに騙され吊り橋を渡っていたら……尿意を催し腰を浮かせたはずみにポケットから蝉の抜け殻が零れた。
「あっ!」
道中回収した抜け殻は、全て真っ黒に腐り果てていた。
その時何故か、生前父と釣りをした時に教えてもらった「疑似餌」の単語が浮かんだ。
吊り橋の先にいた父に似て父ならざる何かは、コイツを山道に散りばめて俺を誘き寄せたのか……。
数日後、東京の母から連絡があった。再就職の目途が付いたらしい。忘れてるなんて杞憂だった。
祖父母と別れて車に乗り込んだ俺は、窓の外を流れ去る田舎の景色に感慨を噛み締め、恐ろしい思いをした裏山を仰ぐ。
入口の鳥居の向こうに父がたたずみ、ゆっくり手を振っている。小さく手を振り返せば、その姿は徐々に薄れていった。
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とても惹き込まれる話だった
書き方がお上手ですね
怖いけど、すこし悲しい
何もないのが向こう側の父親のセリフに現れてるのか
怖い
読ませるねぇ。
此岸と彼岸を区別してるから「俺」はどっちが偽物かわかっていたんだな。
でも此方はイジメがないよ母さんが待ってるよって甘言があったら行ってしまう危うさがあった。
難しい言葉を使うのが好きな作者さんなのね。
とても面白かった
最後は本当のお父さんだったのかな
どちらにせよ切なくて良い
面白かった!
恐くて物悲しい、とても美しい物語だと思った
まさかこの手の「怖い話」で『美しい』という思いを抱くとは思わなかった
なんにせよ素晴らしい作品に触れることができて感謝の念に堪えない
(作者はもしかしてプロのかたなのだろうか?)
beautiful.
大変な思いしているようだが、頑張ってほしい。好きなことを見つけて、そこに打ちこんでほしいね
お母さんの呼び方が「お袋」と「母」となっていますが、統一したほうが読みやすいかと思います。