暗闇の田んぼに立つ案山子のようなもの
投稿者:半田鏝 (6)
友人・Yの家はかなりの田舎にあります。
山や田畑が多く、街灯はポツリポツリとしか立っていなくて、夜になるとそこらじゅうが真っ暗闇に包まれます。
特に田んぼの闇の怖いことと言ったら夜の海と大差ありません。
そんな真っ黒な田んぼに立たされた案山子がパラパラと立つ街灯におぼろげに照らし出される姿は、なんとも怖いものです。Yもその光景は苦手だったようで、夜に案山子が立つ田んぼの脇を通り過ぎるときには、自然と早足になりました。
ある日の夜、Yはいつものように暗くなった田舎道を歩いていました。本当は暗くなる前に家路につきたいのですが、学校や部活動、片道何十分とかかる電車移動などを経るとどうしても遅い時間になってしまうのです。
怖いと思う物にほど視線は吸い寄せられるもの。その日もYはいつものように横目で案山子を見ながら田んぼを通り過ぎようとしました。
すると、街灯の光でぼんやり照らし出されたその中に他の案山子とは違うシルエットを見つけました。
他の案山子の2~3倍くらいの高さのものが、ぬっと突っ立っているのです。格好は案山子のように見えますが、その伸びた背丈が異様で怖い雰囲気を醸し出していました。
Yが思わず足を止めて目を凝らしていると、そのノッポの案山子のような何かは頭部らしき部分をくる~りと回し始めました。
こちらを向くのかもしれない!と直感したYはとっさに目をそらし、早足でその場を通り過ぎました。
翌朝、Yが同じ道を通った時には、田んぼの中に案山子より背の高いものは見当たらなかったそうです。
Yは高校を卒業するまでの間、毎日その道を通らざるを得ませんでしたが、あれ以来一度たりとも例のノッポの案山子を見かけることはなかったといいます。
Yの体験としてはこれだけなのですが、案山子の妖怪のような何かを想像してとても怖いと思った話でした。
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