金曜の夜。
出張から新幹線で帰ってきた僕は、家にも寄らず、そのまま亮のアパートに向かいました。
胸騒ぎ、というやつです。あの電話の声がずっと耳に残っていた。
――ドアノブを引くと、鍵は、開いていました。
「亮? 入るぞ」
灯りをつけて。
六畳の、あの部屋の、真ん中で。
亮は、天井から、下がっていました。
僕は、腰が抜けそうになりながら、震える指で、110を押しました。
やがて到着した警察と一緒に、部屋の中を確認した時。
机の上に、真っ白な便箋が、丁寧に置かれているのを見つけました。それは亮の、几帳面な字で書かれた遺書でした。
――啓介へ。
ばあちゃんが亡くなってから、今日までのことを、書きます。
市松人形の菊のこと。
新しい部屋のこと。
悪夢のこと。
お寺で告げられた、真実のことを。
遺書には、祖母の死から亮が最後の決断をするまでのことが書かれていた。
住職さんは、菊をお焚き上げしましょう、と言ってくれた。
でも、俺には、どうしても、それができない。
菊の中には、ばあちゃんが、いる。
菊を燃やすことは、俺にとって、ばあちゃんをもう一度、殺すのと同じことだ。
けれど、このままだと、ばあちゃんは、俺を殺してしまう。
自分の意志じゃないのに、あの女の人に引きずられて、俺を殺してしまう。
そうなったら、ばあちゃんは、あの世でも、ずっと苦しむ。
だから、俺は、その前に、逝きます。
俺が先に死ねば、ばあちゃんは、俺を殺さずに済む。
それだけで、俺は、満足です。
啓介。
最後に一つだけ、頼みがあります。
菊を、幽泉寺の住職さんに、お焚き上げしてもらってください。
住所は、下に書いておきます。
どうか、頼みます。
亮























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