僕は遺書の隣に置かれたモノを見た。
菊は、穏やかな微笑みのまま、こちらを見ていました。
亮の葬儀を終えた翌週。
僕は、風呂敷に包んだ菊を抱えて、山あいの幽泉寺を、訪ねました。
住職は、僕の顔を見て、何かを察したようでした。
彼は、何も聞きませんでした。
境内の一角に、小さな炎が焚かれ。
菊は、桜色の着物のまま、ゆっくりと、火の中に身を横たえました。
炎の中で、あの穏やかな顔が、じっと僕を見ていたような気がしたのは、
――たぶん、僕の気のせいです。
四十九日を過ぎた、よく晴れた日曜日の午後。
僕は、亮の墓の前に立っていました。
線香をあげ、白い菊の花を供え、しばらく、目を閉じて手を合わせた。
目を開けた僕は、「それ」を一瞥した。
墓石の前に置かれた、市松人形を。
黒々とした前髪。
桜色の絞りの、着物。
体の前で、揃えられた、小さな手。
そっと踵を返して、僕は、山門を、後にしました。
――これで、宮下啓介と、柏木亮の話は、おしまいです。
さて。
あなたには、大切にしているものは、ありますか。
祖父母の形見。子供の頃から手放せない、ぬいぐるみ。
毎日身につけている、指輪。
もしかしたら、その物には、知らず知らずのうちに、
魂が、宿っているかも知れませんよ。
――どんな魂が宿っているかは。
まぁ、
……知らない方が、いいかも知れませんが。
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