向かいの男は、しばらく黙っていた。話の重さを消化しきれずに、ジョッキの縁を指でなぞっていた。周囲の喧騒が、耳の中で妙に遠く聞こえている。
やがて、ぽつりと口を開いた。
「お前、転職したんだよな……。その仕事って……」
男は、ゆっくりと顔を上げた。黄ばんだ照明の下で、目の奥だけが妙にはっきりと輝いていた。口の端が、ゆっくりと吊り上がっていく。それは、あの家では絶対に見せない顔だった。B子さんの前でも、A君の前でも、決して見せることのない顔。
隣のテーブルから、また笑い声が上がった。
「うん。保育士だよ」
男は薄く笑いながら、テーブルに置いた手を持ち上げてジョッキに伸ばした。その薬指には、結婚指輪が光っていた。
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