それは、大学進学を機に一人暮らしを始めた、ある夏の夜のことだった。
時刻は深夜の1時を回った頃。木造アパートの6畳一間の自室で、私はベッドの上に寝転がりながら、何気なくスマートフォンを眺めていた。
突如、画面に「非通知」の文字が浮かび上がった。普段なら無視するはずの着信だったが、その夜はなぜか、妙な胸騒ぎがして指が勝手に通話ボタンを押してしまった。
「……もしもし」
応答すると、受話口から低く、抑揚のない男の声が聞こえた。
『いま、お邪魔してます』
「は? どちら様ですか」
悪質な悪戯電話だと思い、私は少し強い口調で聞き返した。しかし、男は全く同じトーン、同じ速さで繰り返した。
『いま、お邪魔してます』
気味が悪くなり、私は何も言わずに通話を切った。悪寒が走り、すぐに玄関の鍵とドアチェーンが閉まっていることを確認する。窓も完全に施錠され、遮光カーテンが隙間なく引かれていた。部屋には私一人しかいない。
そう自分に言い聞かせ、再びベッドに戻った瞬間だった。
(カチ……カチ……)
静まり返った部屋に、奇妙な音が響いた。
爪で硬いプラスチックを軽く叩くような、あるいは何かのスイッチを切り替えるような、規則正しい乾いた音。
最初は気のせいだと思おうとした。だが、音は明らかに移動していた。
最初はキッチンの足元から。
数分後には、クローゼットの奥から。
切迫感を伴いながら、その音は私の真下――ベッドの底から聞こえ始めた。
(カチ……カチ……カチ……)
恐怖で全身の毛穴が開くのが分かった。ベッドから飛び起き、部屋の明かりをすべて最大に点灯させる。しかし、ベッドの下を覗き込む勇気など到底出なかった。
その時、再びスマートフォンが震えた。画面にはまたしても「非通知」の文字。
恐怖に震える手で通話ボタンを押し、スピーカーモードにしてベッドの上に放り出した。
「誰なんだよ! 警察呼ぶぞ!」
叫ぶ私の声に重なるように、スマホからあの男の声が響く。
『ベッドの上、お邪魔してます』
その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。「ベッドの上にいる」のではない。男は『ベッドの上(という空間に、下から向かって)』お邪魔している、という意味だったのだ。
直後、カチカチという音が止まった。
代わりに聞こえてきたのは、布が擦れる音。
(カサ……カサ……)
何かがベッドの足元から、シーツを這い上がってくる。






















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