部屋は昼間のように明るい。それなのに、ベッドの足元からじわりと、不自然に濃い「黒い影」が伸びてきた。
影の先端から、何本もの人間の指のようなものが突き出て、ベッドの縁を掴んでいる。よく見ると、その指には関節がいくつもあり、芋虫のようにうごめいていた。あの「カチカチ」という音は、この異常な数の関節が擦れ合う音だったのだ。
la 這い上がってきたのは、人間の胴体を極端に引き伸ばしたような影だった。
そして、その「頭部」が視野に入った瞬間、私は悲鳴をあげることすら忘れた。
そこには、顔がなかった。
目も、鼻も、口もない。のっぺりとした肉の塊の中央に、大人の握り拳ほどもある巨大な「人間の耳」が、一つだけ不意味に生えていた。
その耳が、生き物のようにピクリと動き、じっと私の方を「向いた」。
スマホから聞こえていたあの声は、この耳の穴の奥が激しく震えて放たれる、肉声ですらない破裂音だった。
耳の周囲の皮膚が、濡れた音を立てて内側からめくれ上がる。
裂けた肉の隙間から、びっしりと生え揃った人間の歯と、真っ赤な口腔が姿を現した。
『お邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してますお邪魔してます』
凄まじい音圧の狂った声が部屋中に響き渡り、私の意識はそこで途切れた。
◇
翌朝、激しい頭痛とともに目が覚めた。
カーテンの隙間から、眩しい太陽の光が差し込んでいる。
「……夢、だったのか?」
私はベッドの上に仰向けになっていた。昨夜の恐怖が嘘のように、部屋の中は何の変哲もない。衣服も乱れておらず、スマートフォンも床に転がっているだけだった。あまりの恐怖に、ひどい悪夢を見たのだろう。
私は安堵のため息をつき、体を起こそうとした。
しかし、体が動かない。
金縛りではなかった。自分の意思で手足を動かそうとしても、まるで神経の繋がりがすり替わってしまったかのように、1ミリもピクリとも動かないのだ。
視線だけを辛うじて動かすと、私の視界の端に、奇妙なものが映り込んだ。
それは、自分の「手」だった。
ベッドのシーツを掴んでいる私の手の指が、見たこともないほど細長く伸び、不自然な数の関節をカチカチと鳴らしながら、奇妙にくねっている。
(あ、あ、あ……)
声を出そうとしたが、喉から音が出ない。
代わりに、私の頭部の中央――顔のパーツがすべて消失し、巨大に肥大化した「耳」の奥が、歓喜に震えながら音を奏で始めた。
その瞬間、私のスマートフォンが、今度は私自身の操作を離れて勝手に動き出した。
メッセージアプリが起動し、私の知人たちの連絡先が次々と画面に表示されていく。


























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