・・・そしたらね。
目の前に座っている、村田の首から上も、無かった。
叫ぶ間もなかったそうです。
言葉にならない強烈な恐怖が、ドッと田辺さんを襲った。
目の前の男、さっきまで村田だった。いや本当に“村田”だったのか?
言い知れぬ恐怖が全身を駆け巡る。
・・・しかし、それと同時にね、なぜか不思議なことに、言葉では言い表せないほど深い「悲しみ」が、村田のほうからドン!・・・と、田辺さんの胸に伝わってきたんだそうです。
そして気がついたときにはね、田辺さん、自分が運転してきた車の、あの狭い運転席の中で、ハンドルに突っ伏すようにして眠っていたそうです。
外はもうすっかり明るくなっていて、車のエンジンはとうの昔に切れていて・・・。
夢か現か、それすらもわからない。
車を走らせると地元の人だろう、老婆が農作業を始めようとしていた。車を停めて、例の古民家について尋ねると
「あそこらへんにもう人は住んでいないよ」
とぶっきらぼうに答えたそうだ。
「あれは恐らく村田だったと思います。あいつと俺としか知らないことを知っていたし、口調。素振り全部あいつのものでした。
でもね、あいつが何を言いたかったのか、それはわかりません。何を言いたかったのか、見せたかったのか。でも悲しい感情が流れ込んできたとき、思ったんです。あいつは弱音を吐かないヤツでした。もしかしたら最後の最後に弱音を吐きたかったんじゃないかって。俺にそれを知ってほしかったんじゃないかった」
その後、田辺さんはいても立ってもいられなくなってね。
地元に戻ってから、例の「古い民家」について、手当たり次第に調べたそうなんです。
そしたらね、恐ろしいことがわかった。
あの村田が「安く買った」と言って住んでいた、あの山奥の古い朽ちた古民家・・・。
実は、その家で、かつて一家心中があったというんです。
もちろん、それが村田本人だったのかどうかは、今となってはわかりません。
本当に村田は事故で亡くなっていて、あの家に出る何者かが村田の姿を借りて友人を招き入れたのか・・・。
それとも、あのときすでに村田自身も、あの家に囚われていたのか・・・。
それを知るすべは、もうどこにもないんだそうでございます。
それでね、しばらくしてから田辺さんから連絡がありましてね。
「あの話で出てきた家、実は私も買いましてね。よかったら今度遊びに来ませんか?妻と子供と待っていますんで」
って。
しばらくって言ってもね・・・まだ半年やそこらでした。
怪談師としてそこに行くべきなのかもしれませんですがね、あまりの恐怖に丁重にお断りしたのを憶えています。そんなお話です。




























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