二
本当だった。誰にも日代ちゃんが見えていなかった。それに、
「ねぇ真由ちゃん……」
「なに?」
「日代ちゃんって子、知ってる?」
「日代ちゃん?誰の事?」
存在も、覚えていなかった。
私はそれから一週間に一度、土曜日の夜に日代ちゃんを見に行っていた。だが、本当は恐ろしくて仕方が無い。何故なら横たわる日代ちゃんを見る度、日代ちゃんが亡くなる、あの生温かい血が雨のように掛かる瞬間の感覚が甦(よみがえ)るのだ。
それでも毎週見に行っていた。
約一ヶ月目の事。日代ちゃんの皮膚はぐずぐずに腐り、虫が集(たか)っている。私は日代ちゃんを見つめていると、
「…いたいぃ」
腐っている日代ちゃんの口が動き、言葉を発した。私は咄嗟に後退(あとずさ)りをする。
「……日代ちゃん?」
「……さむい……」
その日、日代ちゃんは「いたいぃ」「さむい」とだけ言って、他には何も言わなかった。
何故(なぜ)死んだ筈(はず)の日代ちゃんが喋るのだろうか。私には判(わか)らなかった。けれど、こうなんじゃないかって思う。死神によって他人には見えなくなった日代ちゃんは、「死」という概念が無くなってしまったのではないか。
私はとんでもない間違いをしてしまったのかもしれない。このままではきっと、私が死んで契約が切れるまで日代ちゃんは苦しみ続ける事になる。
日代ちゃんを見つめながら、また「あの時」の感覚が甦った。
こんな事なら、契約をせず素直に警察に捕まればよかったのだ。
私はその場で倒れてしまった。
「玲ちゃん!」
真由ちゃんが私を揺さぶる。目の前には腐った日代ちゃんが横たわっている。
「……真由ちゃん」
「玲ちゃん大丈夫?」
意識が朦朧(もうろう)とする。
「大丈夫……ねぇ、真由ちゃん」
「何?気分悪い?」
私は勇気を出して言った。
「私ね……日代ちゃんを殺しちゃった。私、人を殺しちゃった。」
「……どういう事?」
「日代ちゃんを殺しちゃったの。真由ちゃんの妹。実はね……」
私は全てを話した。
「……じゃあ、日代ちゃんは今目の前に居るの?」
「そう。でも日代ちゃん、死んでも死に切れなかった。私の所為で……私の所為なの。今も偶(たま)に喋ってる。」
「取り敢えず、家の中入ろう。」
その後私は真由ちゃんの部屋にお邪魔して、真由ちゃんは熱心に私の話を聞いてくれた。
「毎週、毎週、見に行くと、『いたい』って、『さむい』って、」
「ねぇ玲ちゃん……」
「なに?」
「本当に、大丈夫?」
心配そうに真由ちゃんは私を見つめる。
「うん、だいじょうぶ。私、そろそろ帰らないと」
「……何を、言ってるの?お母さんに言うから、病院に行こう?」
病院。真由ちゃんは急にそう言い出した。何の話だろう。
「なんで……?」
「取り敢えず寝てて!」
訳も判らず寝かされると、真由ちゃんは部屋から出ていった。
「……お前さん、大丈夫かい」
ふと、聞き覚えのある声がした。
「……死神さん……」
そこには、あの死神が杖を突いて私を見下ろしていた。
「なんで、日代ちゃんはまだ喋っているの?なんで、日代ちゃんを見る度に私は日代ちゃんを殺した時の感覚を思い出すの?」
すると死神は目を細めて言った。
「お前さん、勘違いしてるみてぇだな。死んですぐの人間はな、まだ身体の中に魂が入っとる。つまりまだ『生きている』判定なんだ。それで契約をしたということは、契約が切れるまで死んじゃいけないんだよ。ひよちゃん、と言ったか。その子、まだ生きてるぜ?」
私は、この時決意した。
「……契約を……無かった事に出来ませんか」
「契約を取り消すだってぇ?」
「……出来ませんか?」
「全く無かった事には出来ねぇな。『不可逆』って判るか?」
「ふかぎゃく……?」
「一度変えちまった物はもう戻らねぇって事さ。一度死んだ人間はもう生き返らねぇだろ?それと一緒さ。」
「どうにか出来ないんですか?」
「ひよちゃんを成仏させ方法か?ある事にはあるぞ。」
「どうすれば良いですか?」
「さっき契約は取り消せないと言った。だがそれは———」
























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