奇々怪々 お知らせ

心霊

たけしろのみやさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

深夜のドライブデート
長編 2026/03/04 21:02 121view

「なあ兄貴、俺実は彼女ができたんだ。」
ある日居候の弟がそう話してきた。

弟は半年ほど前に実家を勘当され、俺の住むアパートに転がり込んできた。昔から飽きっぽい性格であり、社会人となった今でも仕事を転々としていた。そのうち働くことに飽きたのか、実家で親のすねをかじっていたところ、とうとう父親の堪忍袋の緒が切れたという。

そんな弟だが一月ほど前から、ほぼ毎日夜中に俺の車を使って出かけるようになっていた。日付が変わるぐらいの時間に部屋を出て明け方には戻ってきている様子だった。俺がその時間に車を使うことは無かったのであまり気にしてはいなかったのだが、その時間何をしているのか聞いたところ彼女ができたので、二人でドライブデートをしていると教えてくれたのだ。

正直弟は昔からモテるタイプだったのでそんなに驚きはない。それにお互い良い大人なので俺もあまり干渉する気はなかった。ただ日中に会わず、深夜にばかり会っていることが気にかかった。
「ああ、彼女は昼間は事情があって会えないみたいで、それでいつも夜に会っているんだ。」
事情、実家住まいで親が厳しいとかそういうものだろうか、それとも夜中でないと会えないような仕事をしているのか、気にかかったが弟は「俺もまだ彼女のことよく知らないんだよ。」と笑った。
「先月かな、深夜に山道をドライブしていたら道を歩いていてさ、気になったから声をかけたんだよね。そしたらその近くに家があるっていうからさ、車に乗せて家の近くまで送ってあげて、それから仲良くなったんだ。」
弟は嬉しそうに話していた。俺は奇妙な出会い方だとは思ったが、適当な弟の性格はよく知っていたので、ガソリンはしっかり補充しておけよ、とだけ伝えてあまり気にはしていなかった。

しかし、それから弟の様子は日に日におかしくなっていった。目の下には深いクマができ、目に見えてやつれていった。日中はぼんやりするばかりになり、こちらから話しかけても生返事になることも多くなった。俺はさすがに心配になり、毎日毎日深夜に出かけているのがいけないんじゃないか、日中に会った方がいいと弟に言った。
「夜じゃないと駄目なんだ。夜じゃないと来てくれないんだ。」と言うだけで、弟のおかしな様子にそれ以上は何も言う気になれなかった。
そんな弟の扱いに俺は悩むようになっていたが、ふと車に設置してあるドライブレコーダーのことを思い出した。それを見れば弟の夜中のドライブの様子を見ることができる。俺は休日の昼間にドライブレコーダーのデータをチェックすることにした。

車に乗り込み、ドライブレコーダーを起動する、とりあえず直近の弟のドライブの映像を再生して見ることにした。

深夜11時半、弟が車のエンジンを入れ出発するところから映像は始まった。映像は車外を映すのみで、車内の様子は見られない。時々弟が咳き込む音が入り込む。
車は市街地の道路を走り続け、やがて郊外の幹線道路に出た。そこからさらに脇道に入り、山へ向かっていく。
俺はてっきり山のふもとに家があるのかと思っていたが、映像では山のふもとの集落は素通りし、そのまま山の中を通る峠道を走り始めた。車のライト以外にはほとんど明かりもないような道をひたすら登っていく。この先に人家などあるのか怪しい場所だ。
しばらくすると車が道路脇へ停車する。停車した車の正面に道の舗装もされていない細い林道が分かれて続いているよう場所のようだ。映像は林道の奥をライトが照らしている様子が映っている。
この先に彼女の家があるというのか。
「おっ。」と弟が嬉しそうな声をあげる。林道の奥から人影が近づいてくる。
背中に冷たい汗が流れるのを感じた。この人物の姿を見てはいけないと直感が告げている。しかし、弟への心配か、俺自身の好奇心か、結局映像を止めはせずそのうち人影は車の目の前まで近づいた。
それは長い髪の女だった。だが生きているようには見えなかった。衣服はボロボロに破れ、肌は青白く、首が異様に長かった。死体だ。俺は一人で呟く。そしてそいつが笑顔のような表情を浮かべながら弟の方へ手を振った。

少しすると女が車の前から移動した。助手席に乗り込んだらしい。
弟の弾んだ声が聞こえる。
「ごめんね、待ったよね。」
「そんな意地悪なこと言わないでくれよ。ちゃんと来たじゃないか。」
「今日もこの辺をぐるっと回ろうか。」

会話のようだが、映像からは弟が一人で話している音声しか聞こえてこない。
そのうち弟が真剣な声で話し出す。
「最近、兄貴が俺たちの関係に口を出してくるんだよ。兄貴なりに心配しているんだと思う。」
「兄貴は昔から俺のことには無関心を装っているんだけと、本心では俺のことを大切に思っているのはよくわかるんだ。」
「だからお前のことちゃんと紹介したいなと思って。…どうかな。」
「…いいの?ありがとう!そしたら今度兄貴を一緒に連れてくるよ!」
「そうだよな。これから先一緒になるんだから、兄貴は連れて行くべきだよな。ごめん、俺が変な意地張ってまだ家族には会わせない、なんて言ってたから…。」
「そしたら善は急げだ。今晩兄貴に声かけてみるよ。またいつものところで待っててくれる?」
俺は映像を切った。急いで車を降り部屋に戻った。すると弟が声をかけてきた。
「あ、兄貴今晩少し遅くまで起きていてくれないか。彼女を紹介したいんだ。」
「…悪い。実は明日からしばらく長期出張で、夕方には出かけるんだ。当面はここに戻れないと思う。部屋と車は自由に使ってもらっても構わない。」
俺はそれだけを言うと弟の返事も待たずに荷造りを始めた。とにかく夜になる前にここから離れないといけない。
俺は会社に少しの間休むことを伝えると、新幹線でできるだけ遠くの街へ出た。それから3日間、夜中になると弟から電話やメッセージが入るようになったが俺はそのすべてを無視した。
その後、弟からの連絡は途絶えた。友人を何人か連れて部屋に戻ったが、弟もいなければ、車も残っていなかった。おそらく弟はもう生きてはいないのだと思う。

1/2
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。