秋も深まり、山々は鮮やかに紅葉で彩られている。
行楽シーズンを迎えた各所の名山は登山客で賑わいを見せている一方、原田駿はただ一人、名も無き山を黙々と登っていた。
登山道等という気の利いたルートは無く、藪漕ぎしながら道無き道を進み、3時間は経過している。
時折、顔に向かって跳ね返る草木がピシッと頬を引っ掻く。
「くそ、相変わらずひでぇ道だなぁ。獣道の方がまだマシだ。」
駿は嘆くようにそう呟くと、頬をポリポリと掻きながらマップとGPSで位置と方角を確認する。
目的地まではまだまだ距離があるものの、行程予測よりも随分早いペースで進んでいるのは確かだ。
予定通り、日帰りできそうである事を再確認できた駿は、よし、と小さく意気込んだ。
再び前進すると、水の流れる音がする。
その音の方へ向かうと美しい渓流が眼前に広がった。
比較的大きい石があり、駿は深いため息と共にどっかりと腰を降ろした。
時計に目をやると9時15分を指している。
早朝6時頃から入山している駿にとっては空腹になる時間帯だ。
インスタントラーメンを食べる為に、水とバーナー、クッカーをザックから取り出す。
慣れた手つきで調理を進めていると、茂みからガサガサと音がした。
駿はギクリとし思わず身を固くしたが、姿を現したのは作業服を着た年配の男だった。
名は知らないが、見慣れていたその顔を見た途端、安堵の溜息をついた。
「あんた、また来はったんか。」
男はそう言いながら、首に巻いていたタオルで額の汗を拭う。
「遠藤さん、驚かさないでくださいよ。ーーーええ、まぁ、もう日課みたいなもんですね。ここに来ないと身体が落ち着かないっていうか。」
「日課言うても、東京からはるばるこっちまで来てはるんやろ?毎度毎度、大変やな。定期的に来てるんは今じゃあ、あんたくらいなもんやで。律儀というか、なんと言うか。」
よっこらしょ、と遠藤と呼ばれる男は駿と向かい合うように河原へ座ると、水筒を呷り一息つく。
「ーーーほんで、何か見つかったんか。」
遠藤のその一言に、駿は力無く首を振った。
駿の様子を見た男も、黙りこくる。
一瞬の沈黙を破るように、駿は口を開いた。
「納得できないんですよ。なんであいつが居なくなったのか、俺にはわからないんです。」
ゴォーッ、というガスバーナー独特の音が静かな山に響き渡る。
水の湧き上がる蒸気で、ゆらゆらと揺れる向こう側の風景はまるで蜃気楼のようだった。
それをボーッと見つめていると、”あの話”をふと思い出す。
























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