「光。お前、どこへ行っちまったんだ。」
***
岩田光は、駿とは3歳下でよく可愛がっていた後輩であった。
兄弟に近い関係だったかもしれない。
くっつかず離れずの距離感を保ち、共通の趣味である登山を社会人になってからも共に続けていた、大切な友人でもあったのだ。
そんな光は2年前、この山中で突然消息を絶った。
帰宅しない光を心配した家族が警察へ通報し、1週間山狩りが実施されたものの徒労に終わった。
警察は遭難ではなく事件性も視野に入れ、麓の街まで捜査を広げたが何の成果も上げられぬまま、捜査は打ち切られた。
光は神隠しの如く、何の痕跡も残さぬまま消えてしまったのだ。
一方、光の家族は彼が今もどこかで必ず生きていると信じて疑わず、現在も帰りを待ち続けている。
駿としても同じ気持ちではいるものの、光の家族とは別の疑念を抱いてた。
ーーー光は、本当に遭難したのか。
光は登山者としての経験値が豊富であり、高難易度な山をいくつも制覇している。
一時期は山岳レスキューのボランティアにも参加していた程、山の特性は理解していたし熟練されていたと言っても過言はないだろう。
そんな光が、この小さな山で消息を断つ事自体が駿には解せなかったのだ。
何かしらの事件に巻き込まれたとしか思えなかったのである。
ーーー生死こそわからないものの、少なくとも光はこんな山で死ぬ奴ではない。
そんな気持ちが強かった。
だが、それ以外にも明確な根拠があった。
行方不明前に、光と酒を呑んでいた時の事である。
「ねぇ駿さん。俺、来月あたり◯◯山に行こうと思うんです。」
「へえ、関西か。」
「釣りに行こうと思って。っていうのも、ネットのマップでどこか面白そうな沢はないか、探してたら見つけて。航空写真じゃうまく映らなかったんですけど、今までチェックしてこなかった沢なんで、ハイキングがてら行ってみようかと。多分渓流だと思うんだけど、ネットにも情報が何もないから、もしかしたらって。」
「釣れるかわからない関西の里山までわざわざ行くのか。」
「何言ってるんですか。駿さんだって分かりきった山行くより、未踏の方が楽しいでしょ?それに釣りの場合、先行者がいるような沢じゃあ、ろくに釣れもしないから。なるべく人が少ない所を狙いたいんですよね」
「確かにそれは山でも釣りでも同じだな。で、場所はどこなんだ?」
「ここなんですよ、この山の先にーーー」
そんなやりとりの後、現地へ着いたであろう光に駿はスマホでメッセージを送った。

























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