乙:いや、もっと原始的で、かつ精巧な細工物だ。そいつはその地図を指して、「第七期の変動サイクルが近い」と警告してきた。
甲:第七期?
乙:奴らの暦なのかもしれん。その地図には、今の大陸配置とは全く違う地形が描かれていた。特に太平洋の真ん中だ。俺たちの知ってる海溝があるあたりに、巨大な山脈が隆起している図だった。
甲:……ふむ。
乙:俺が「そんな山はどこにもない」と笑うと、奴は必死になって叫んだ。「まだ起きていないだけだ」とな。座標数値まで並べ立てて……ええと、確かログに残ってたはずだ。
(紙をめくる音、椅子がきしむ音)
乙:これだ。東経……いや、この数値体系、今のGPSとは桁が違うな。まあいい、とにかく奴は、その「隆起」がきっかけで地上の生態系がひっくり返ると言ってた。
甲:生態系の反転、ですか。
乙:ああ。「空気が重くなり、鳥が落ちる」とか言ってたな。……おい、そんな顔をするなよ。ただの世迷い言だ。俺だって本気にしてたわけじゃない。
甲:いえ、少し眩暈がして。このプレハブ、暑すぎませんか?
乙:空調がイカれてるからな。……で、その男だが、結局どうなったと思う?
甲:保護されたんですか?
乙:逃げたよ。目を離した隙にな。その後、港湾区の倉庫街で野良猫みたいな生活をしてたらしいが、半年もしないうちに死んだ。
甲:死因は。
乙:プレス機への巻き込まれ事故だ。……いや、警察の見解はそうだが、現場を見た奴の話じゃ、まるで自分から機械の中に飛び込んだみたいだったそうだ。「振動が足りない」とブツブツ言いながらな。
甲:気味の悪い話ですね。
乙:全くだ。奴が残したあのプレートも、ガラクタ入れに放り込んだままだよ。……見るか?
(ノイズ。数秒間の音声途絶)
甲:……いえ、結構です。今は在庫の確認が先ですから。
乙:そうかい。まあ、ただのプラスチック片かもしれんしな。
【追記:事後報告書】
本音声データの収録から三年後、現場監督K氏は洋上プラントの視察中に消息を絶った。突発的な局地地震による津波に巻き込まれたとされている。
特筆すべきは、彼が失踪した海域である。
先日、海洋研究開発機構が発表した海底地形調査の結果において、K氏が当時語っていた海域に、説明のつかない急激な「隆起」が確認された。その隆起帯の形状は、ある種の規則的な幾何学模様を描いているという。
K氏の遺品からは、例の「プレート」は発見されていない。彼の部屋は荒らされた形跡があり、全ての記録媒体が持ち去られていた。
あの「地底の調査員」が口にした「第七期の変動」。
最近、高層ビルの上層階で野鳥の大量死が相次いでいるのは、単なる偶然なのだろうか。空気が、以前より重くなっている気がしてならない。
(記録終了)























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