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ヒトコワ

沈丁花さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

爽やかな人、その仮面の下は
長編 2025/12/26 13:43 342view

 俺は怖くてたまらないのを我慢して、精一杯の抵抗と説得を試みた。
「その包丁は俺のだ!早く返せ!とにかく落ち着け!人殺しなんて、考え過ぎだ!」
 そしたらPは、
「考え過ぎてなんかいねえよ。じゃあ明日これで包丁を買って来いよ、分かったな!」
と俺をどやしつけて、包丁を元の場所に戻した。それから俺に一万円札を投げつけた。
「俺は犯罪の片棒なんか担がない!俺を巻き込むな、迷惑だ!」
と言い、Pにその一万円札を手渡した。

その結果、Pはますます激昂し、
「何だと、結局は自分が一番かわいいのかよ、この野郎!」
と怒号し、俺の鼻っ柱を殴りつける真似をしやがった。

 やつの拳骨が当たることはなかったが、俺は仰天して尻もちをついたうえ、軽くおもらしまでしてしまった。
(汚い話ですみません・・・・・・。)
「安心しな、オレはあんたのようなチビや女に怪我をさせたことは一度もねえよ。」
と、Pは太々しく腹立たしい笑みをまた俺に向けた。

 

 

 
 誰にでも名誉があるから言っておくが、この時はPも俺も完全にシラフだった。呑気な俺も、流石にPは相当におかしいと思った。
 Pが帰った後、俺は警察に電話をしたが、
「そういうことは済んだ後じゃなくて、喧嘩してるときに電話してくださいね。」

と、苦笑されただけだった。

 Pが俺の部屋で刃物を出したことも証明できないから、この時点では俺は実家にも連絡しなかった。Pも目の敵にしているTさんの住所も知らないらしかったので、俺はTさんにも自分の直属の上司にも何も言わなかった。

 

 

 

 その後、介護施設で働く別の友人(以下Yさん)にPのことを相談すると、彼はおそらく難治性の心の病気であり、しかもかなり病状が進行しているだろうと言われた。また、彼とは縁を切ることと、次に彼が包丁を出したらすぐに救急車を呼ぶように勧められた。
 Yさんが言うには、包丁を出した場合は病状が深刻であるとみなされ、緊急入院をさせられるという。

 

 

 それから、俺はカフェでPに「ただの仕事仲間に戻ろう」と告げ、二度と俺のアパートに来ないように念を押した。案の定そこで駄々をこねられたので、率直に「あなたがこの間俺のアパートで大暴れをしたからだ」と伝えた。そしたら、彼は俺の包丁を取り出したことも、俺を殴ろうとしたこともまるで覚えていなかった。

3/6
コメント(1)
  • 花蘇芳(沈丁花)です。【本当に恐ろしいのは(最終章)】と副題を設けましたが、短編はもう少し続きます。

    2025/12/26/13:48

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